絵本『アイラのおとまり』の魅力とは?
翻訳者まえざわあきえさんにお話を伺いました!
アメリカではロングセラーとして35年も愛され続けているという絵本『アイラのおとまり』。
子どもから大人まで惹きつけてやまないこの作品、一体どんな内容なのでしょう。
待望の新装復刊を記念して、翻訳者のまえざわあきえさんにこの作品の魅力を語って頂きました!
『アイラのおとまり』
バーナード・ウェーバー 作 まえざわあきえ 訳
ひさかたチャイルド/チャイルド本社 刊
▲翻訳家まえざわあきえさん。
※こちらの写真はミュンヘン国際児童書図書館内にある、絵本作家ビネッテ・シュレーダーのコーナーで撮影されたものだそうです。後ろにあるのはビネッテ・シュレーダーがデザインした機械仕掛けの作品だそうで、小さな扉を開くと、オルゴールがなって中の景色や人物が動くそうです!
■ 『アイラのおとまり』の原書との出会いは・・・。
まえざわさんは『アイラのおとまり』の原書に出会われた事が翻訳の道へ進むきっかけになったとお伺いしています。その時のエピソードなどを教えて頂けますか?
アメリカの大学留学中、英米文学科の絵本の授業で『アイラ』に出会いました。教授が持ってきた絵本のなかに『アイラ』を見つけたクラスメートたちから、「読んで!」コールが起きたのです。教授は、「しかたない……」といった感じで、『アイラ』を読み始めました。原書のリズムは、くるくると変わるアイラの気持ちにぴったりでした。学生たちは、笑顔で聞いています。子どものときにアイラを読んだ彼らが、おとなになっても愛してやまない様子を目の当たりにして、絵本の力を改めて感じた瞬間でもありした。
そしてわたしも、この本のとりこになりました。おとまりに誘われて、大喜びしているアイラの無邪気なようす。次の場面から一転、アイラは真剣に悩み始めるのですが、その表情もまたかわいい。
アイラを取り巻く家族にも、魅せられました。お父さん、お母さんの愛情がつたわってきますし、お母さんがソファでゆったり新聞を読み、お父さんはチェロをひいて……なんていう心の余裕にもあこがれました。
五歳年下の弟のいるわたしには、おねえちゃんの気持ちも痛いほどわかります。弟がかわいいからこそ、家で甘やかされている弟に、世間で受けるかもしれないキツイ一撃を教えてやらずにはいられないのです。(最近わたしの弟にそんな話をしたら、「いや、受けたほうにしてみれば、あれは愛情じゃない、ただのいじわるだった」と言われ、とてもショックでした……。)
レジーも、ちょっとずるいけど、いっしょうけんめいで、そこがまたほほえましい……。
最後に安心して本を閉じることができるのも、いいなあと思いました。
授業のあと、アメリカの公立図書館で、『アイラ』を読み聞かせしている場面にも遭遇しました。子どもたちが、身を乗り出すようにして絵本を見ています。アイラがぬいぐるみをつれていかない、というと、みんな、小さな肩をがっくりと落とし、「オー…」とためいき。やっぱりつれていこう、となると、こんどは「そうだよ!」「つれていったほうがいいよ!」と歓声があがります。
アメリカの子どもたちは、ごく小さい時から、親とはべつの部屋で寝ます。わたしのアメリカの友人たちは、親と寝ていた記憶はなくて、もの心ついたときには、ぬいぐるみと寝ていた、と言います。ひとり泣きながら寝た夜のことも、ぬいぐるみだけは、ぜんぶ知っているのです。そんなぬいぐるみと離れて友だちの家で寝るのは、すごく勇気のいることに違いありません。だからアイラの問題も、他人事ではないのです。
こんなにみんなに愛されている絵本なら、日本の子どもにだって読ませてあげたい……。そう思ったのが、『アイラ』の翻訳を思い立つきっかけでした。
子どもの頃まるで自分の事のように共感しながら読んでいた子たちが、大人になっても嬉しそうにお話を聞いている様子。なるほど「絵本の力」というものの原点を感じるエピソードです。きっと日本の子ども達にも愛されるでしょうね。
■ アイラの素直さが伝わるように・・・。
お話自体はちょっと長めなのですが(48ページ)、アイラと一緒の気持ちになって迷ったりドキドキしているうちにあっという間に読める印象を受けました。小さな子でも楽しめそう!翻訳される時に意識された事はありますか?
アイラの素直さが伝わるように……と思いながら訳しました。それから、英語で読んでもらったときの軽やかなリズムも、忘れないように――。重たいリズムでアイラが悩んでしまったら、聞いているほうも、しんどいですから……。
日本でも、いろいろな方が読み聞かせしているのを聞いたことがあります。会話が多いせいか、読む人によっていろいろなアイラやレジーが登場して、とても楽しいです。みなさんにも、ぜひ、声に出して読んでいただけたらと思います。
■ 作者のバーナード・ウェーバーさんは家族をとても大切にされている方。
作者のバーナード・ウェーバーさんはどんな方なのでしょうか?
ウェーバーさんは、グラフィック・デザイナーをしていたとき、彼の作品集を見たアート・ディレクターたちから、児童書のイラストも描いてみてはどうかと勧められたそうです。ちょうどそのころ、ウェーバーさんは自分の三人の子どもたちに絵本の読み聞かせをするようになり、絵本の魅力にのめりこんでいきました。子どもをつれて図書館へ行くと、夢中になって絵本をあさるので、子どもから、「パパはおとなの本棚に行って」と言われたとか。それから絵本を作るようになったそうです。
「自分の作品は、家族の愛情や支援があってこそできたもの」と、ウェーバーさんは家族をとても大切にしています。その気持ちが、また、絵本に反映されていると思います。
▲バーナード・ウェーバーさん。
(作品やエピソードから受ける印象どおりの愛らしさ!!嬉しくなっちゃいますね。)
■ 『アイラのおとまり』のみどころを教えてください!
アイラにふりかかった問題や、家族とのやりとりのようすは、年齢や文化を超えて共感できるものだと思います。だれでも子どものころには、おとなから見ればささいなことで不安になった経験があるのではないでしょうか。
でもよく考えてみると、おとなだって、他人から見れば取るに足らないことで悩んだりするし、心に不安があれば、なかなか決断を下せない・・・。「これがあると安心」「これがないと不安」というものだってあるはずです。アイラは、だれの心の中にもいるのだと思うのです。この本が長く愛される秘密のひとつは、このあたりにもあるのかもしれません。
また、ウェーバーさんは、絵本の形をうまく活かして、言葉では語りつくせない感情の機微を伝えたり、読者を物語の世界に引き込んだりします。
たとえば『アイラ』で、真っ白なページに、「だけど おねえちゃんが いうんだ」とか、「そしたら おねえちゃんは いうんだ」とか、でてくると、たいてい次のページのおねえちゃんのセリフはいじわるです。こんなふうに決まったパターンを繰り返すと、小さな子どもでも、次にどんなことが待ち受けているのか予測できます。予測できると、子どもたちはますます絵本に引き込まれていきます。
以前、3歳の男の子に『アイラ』を読んであげたことがあります。物語中盤、真っ白なページに書かれた「でも おねえちゃんは いうんだ」という一文を読んだら、その子は次のページへ進もうとするわたしの手をおさえこんでいいました。
「ねえ、おねえちゃんも、『つれてくのがいい』っていって!」
おねえちゃんのいじわるは、もう、聞きたくない、アイラには、ぬいぐるみを連れて行ってほしい――と、いうわけです。この絵本を初めて読む3歳の子でも、展開を予測していたのです。この子の頭の中には、自分だけのアイラの世界が広がっていたに違いありません。
ウェーバーさん自身、絵本を余すことなく楽しんで作っているなあと思うのです。
■ いつか自分でも、アイラのようなかわいいお話を・・・。
まえざわさん御自身についてお伺いします。こんな絵本を翻訳されていきたい、というのがありましたら教えて頂けますか?
おなかを抱えて笑ってしまうような話でも、涙が止まらない話でも……何度でも読みたくなるような絵本、何かの時に取り出して、また読んでみようと思うような絵本を訳せたら、幸せです。いつか自分でも、アイラのようなかわいいお話を作ってみたいです。
▲こんな可愛い手書きのサインを頂きました!!
まえざわさんのつくったお話、楽しみですね。ありがとうございました。