「わたし、持沢さんと友だちになりたいな、と思ってます。」
物静かだけれど感じがやわらかく、誰にでも親切な持沢さんことモッチ。主人公の秋は、小学五年生のクラス替えで同じクラスになったことをきっかけに、モッチに思いきって友だちになりたいと手紙で伝えます。手紙に返事はなかったものの、それ以来、学校から一緒に帰ったり、モッチのお家にたびたび遊びに行く仲に。けれどもいつものようにモッチの家に遊びに行ったある日、秋は大切なレコードをモッチの幼い弟に傷つけられてしまいます。このレコードは、一緒には住んでいないけれど慕っているお父さんの「道夫くん」からもらった秋の大切なものでした。秋の心に、いろいろな思いがかけ巡ります。
あのとき、モッチは弟に「入ってきちゃだめ」っていえばよかったんだ。 いうべきことをちゃんと言えないモッチが悪いんだ。 モッチが何度謝っても、涙をこぼすのを見ても、秋はモッチへのいじわるな気持ちが広がっていくのを止めることができません。その上、自分が気になっている佐伯くんのことをモッチも好きかもしれないという考えともこんがらがって、どんどんモッチにいじわるな言葉を投げ続けてしまうのでした。
お話は、秋の視点と、モッチの視点が交互に紹介され、それぞれが繊細に揺れる気持ちが描かれていきます。
いじわるな言葉を投げつけてしまった後の秋の気持ち、一方モッチは秋のことをどんな風に思っているのか、友だちになりたいという手紙をもらってどんな風に思っていたのか。またモッチがクラスの仲良しグループで嫌がらせを受ける別の問題など、小学校高学年ぐらいの子どもたちだったら体験したことのある感情がお話のあちこちに出てくるように思います。大人が読んでもさまざまな感情が呼び起こされていくようです。
「あのね、どっちもどっち、って思えるのが友だちだと思うよ。」 「どうやってその子といい友だちになれるか。友だちになるのって簡単そうでむずかしいことだよ。」
秋に「道夫くん」がかけてくれる言葉は温かく、悩める秋を導いてくれます。「いい友だち」になるって確かになかなか難しいことですよね。たとえ仲が良くてもすれ違いは起きるでしょうし、相手にひどい言葉を投げつけてしまうことだって、多くの人が通っている道なのかもしれません。そのややこしさや大変さをごまかすことなく、リアルに、丁寧に表現する岩瀬成子さんの物語は、悩める子どもたちに誠実に寄り添い、励ましてくれる存在となることでしょう。
さて、秋とモッチ、それぞれの心の成長とふたりの関係は、この後どう変化していくのでしょうか。それぞれに気持ちを動かしながら、そっと見届けてみて下さいね。
(秋山朋恵 絵本ナビ編集部)
小学5年生の秋は、友だちのモッチの家へ遊びに行った時、大切なレコードをモッチの弟に傷つけられてしまった。秋は、弟を止めなかったモッチが悪いと思うようになる。そして、モッチは自分の考えをはっきりと言えないところも、前から良くないと思っていた。秋は、モッチへのいじわるな気持ちが広がっていくのを止めることができなかった。 モッチは、レコードのことで怒っている秋ちゃんをずっと気にしていた。もう自分のことを許してくれないかもしれないと思っていた。秋ちゃんに「レコードを傷つけてごめんなさい」という手紙を書きながら、前に秋ちゃんからもらった手紙のことを思い出した。秋ちゃんは、「友だちになって」という手紙をくれたのに、モッチは短い返事を書いた手紙を、結局渡せずにいた……。 ささいな出来事をきっかけに離れていくふたりが、再び心を通わせるまでを描いた物語。
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