津軽の大地主津島家に六男として生まれ、旧家の重圧を感じて成長した太宰治は、青春の一時期、思想運動の渦中で苦闘した。間もなくその運動から離脱したかれは、裏切り者としての罪の意識にさいなまれながら文学に転身し、処女作『思ひ出』、つづいての『道化の華』で新進作家としての地位を築いた。以後、その絢爛たる才能を開花させ、『ヴィヨンの妻』や『斜陽』で脚光を浴び、さらにその生涯と文学との総決算ともいうべき『人間失格』を残した。玉川上水に投じその生涯にピリオドを打った太宰治は、人間の不安と苦悩とを集約的に描きつづけたユニークな現代作家といえよう。
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