2001年に欧州評議会によってCEFRが発表され、日本でも複言語教育が論じられるようになった。複言語教育の考え方をめぐる概念に関する論考、及び、日本での複言語教育の実践や構築のための文脈を明らかにする論考を収録。
■まえがきより 第1章(西山論文)はCEFRの増補版が出てから特に注目されるようになったmediationの概念について,これを単なる外国語教育の概念から学校教育における概念へと発展させた論考を元に,その意義を論じる。続く第2章(カヴァリ論文)は学校教育の中の言語の多層性について明らかにするもので,教育の複言語主義を検討することにより,教育における言語そのものの解像度を上げるものである。第3章(奥村論文)はCEFRの提唱する複言語主義の意義をわかりやすく提示するとともに,個別の言語教育もその言語の習得だけを目指すべきではなく,包括的なことばの教育として,学習者の持つ言語レパートリーに基づいて行うべきであるとの複言語教育の根本的価値を明らかにする。第4章(大木論文)は複言語・異文化間教育には多様性を創造性に結びつける仕組みがあることを明解に論じる。これはCEFRやCARAPに見られる能力記述文の解像度を上げるものである。第5章(西島論文)はイタリアにおける複言語主義の展開について検討し,各国の採用する複言語教育の発展にはそれぞれの事情があり,教育理念は常に文脈の上に構築されることを知らしめる。
第6章(モーア論文)は,日本の小学校で実践されている複言語教育を事例として,言語と内容の学習目標を組み合わせ,カリキュラムと教育計画を概念化し,様々な教育関係者を結びつける方法として,CLILに替わるPASTELを提案する。第7章(森論文)は国語科教育と外国語教育の接続の可能性を国語科の成立の経緯と視点から丁寧に論じるもので,教科担任制の始まる中等教育において複言語教育の実践を目指すうえで検討すべき論点を明らかにする。第8章(山本論文)は大学の一般教育における複言語教育の実践から,その効果と日本における意義について詳しく描き出す。第9章(カンドリエ&大山論文)は複数の言語学習を学習者が「統合できる」ように促すための教授法(統合的教授法)について論じるとともに,日本の大学で行われる初修外国語の教室での実践を報告する。
■著者紹介 西山教行(京都大学大学院教授) 大山万容(大阪公立大学講師) マリア・カヴァリ(欧州評議会等、国際的研究プロジェクト専門家) 倉舘健一(慶應義塾大学講師) 奥村三菜子(NPO法人YYJ・ゆるくてやさしい日本語のなかまたち) 大木 充(京都大学大学院名誉教授) 西島順子(大分大学講師) ダニエル・モーア(サイモン・フレイザー大学卓越教授) 森 篤嗣(京都外国語大学教授) 山本冴里(山口大学教員) ミッシェル・カンドリエ(ル・マン大学名誉教授)
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