顕密体制論や寺社勢力論が提起されてから、早くも四十年以上の年月が経過している。これらの研究がなお多くの課題を抱えているにせよ、一定の達成をみることのできた現在、黒田俊雄の問題提起を、積極面だけではなく難点まで含めて、率直に語りあうべき時期に来ているのではないか。本書は、顕密体制論が何を提起し、どのような達成があり、何が課題とされているのかを問うものである。 【目次】 序章 顕密体制論の方法とその課題 第一部 顕密体制論をめぐって 第一章 黒田俊雄氏と顕密体制論 第二章 王法と仏法 第三章 鎌倉新仏教論と官僧 第四章 仏教思想史研究と顕密体制論 第五章 新仏教と顕密体制論 第六章 中世成立期の王権と宗教 第七章 顕密体制論における聖をめぐって 第二部 専修念仏をめぐって 第八章 善鸞義絶状と偽作説 第九章 親鸞の配流と奏状 付 論 建永の法難の史料学 第十章 建永の法難と九条兼実 第十一章 専修念仏の弾圧原因をめぐって 第十二章 法然教団と専修念仏の弾圧 結び 第十三章 鎌倉仏教の成立と展開 あとがき 索 引 【「あとがき」より】 いま私たちは、荘園公領制を基礎とする社会や国家を「中世社会」「中世国家」と規定したならば、封建社会論に依拠することなく「中世という時代」を語ることができるし、「中世宗教」概念を措定することもできる。となれば、社会構成体論に拠らずとも、顕密体制論を再構成することが可能なはずだ。その方法的考察を行ったのが序章であり、その方法論をもとに鎌倉仏教を具体的に論じたのが「結び」の第十三章である。それが成功したかどうかは読者諸賢の判断に委ねるしかないが、本書において私は、前著とは別の方向で野心的な試みを追求したつもりである。
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