戦中戦後とたどる母と子の歴史です。
読み聞かせをする者にとっても、とても大切な何かを残してくれる作品です。
戦争中の厳しい生活の中、軍人である父親は戦地に行って戻ってこなかった。
そんな中でいろいろなお話をしてくれた母親。
それを楽しみにしていた兄弟。
お話は生活の糧だったのでしょう。
戦争中に「アリババと40人のとうぞく」の話をしてくれたお母さんは子どもに希望を与えてくれました。
「ひらけゴマ!」が自分の心の宝物になり、お母さんと自分の合言葉になりました。
話は変わって戦争も遠い昔となり、その頃の子どもはおじいさんになりました。
母親も介護を受ける身となり、人の話もわからなくなりました。
弟夫婦に任せている母を訪ね、おむつの取り換えなどは息子にとって身につまされるような状況でしょう。
いつか、自分も母親の枯れていく様を受け入れなければならない。
何もわからない母が「ひらけゴマ!」に反応しました。
合言葉だった「おかえりなさいませ」。
物事が判らなくなっても心に残る言葉があったことが涙腺を熱くしました。
奥さんは自分に母親を重ねたのでしょうか。
それともふれあう老人たちを思い描いたのでしょうか。
私が読み終えた後、顔を上げると大粒の涙を流していました。