桜木紫乃さんの初めての絵本は、とても考えさせられる女性の、家族の絵本でした。
この絵本に寄せた桜木紫乃さんのメッセージをネットで読むことができます。
そこには母から自分の名前を忘れられた自身の経験が書かれ、そのあとに「この先、どんどんわたしを忘れてゆく母のことを考えながら、「家族じまい」という小説を書きました。絵本「いつか あなたを わすれても」は、小説からは漏れた、孫の視点で書いてみました。」と綴られていました。
この絵本に登場するのは、幼い私、そしてママとママの名前を忘れたおばあちゃんの「さとちゃん」。
認知症の「さとちゃん」はママの名前だけでなく、これまでのことをゆっくり忘れていこうとしています。
ママはそのことを悲しむのではなく、しっかり受けとめています。
そんな「さとちゃん」がいたから、私とママは「女の子と女の人のちがい」や「初めてのキス」のことなど、少し大人の会話ができるようになります。
それは母から娘に手渡す大切な時間。
初めての絵本作りに桜木紫乃さんは、「不要な言葉を取り払ってゆく作業」と綴っています。
いつも書く物語の文体ではなく、言葉を絞ってしぼってできた絵本だからこそ、伝わる思いというのがあります。
桜木さんのそんな思いが、オザワミカさんの絵にもよく伝わっていて、ここでも「不要な」ものが取り払われています。
「いつか わすれてしまうじかんを/たいせつにすごす」、心の奥にジンをくる言葉です。