酒井駒子さんの絵はとても存在感があります。
そして、奥深いのです。
子どもに好まれる軽さや爆発感等とはちょっと異質かも知れません。
自分にとって、少しとっつき難かった作家ですが、なじんでくると重量感と、作品毎の表現、そして酒井テイストのざらつき感がとても気になってくるのです。
この絵本では、酒井さんは絵本の絵についてかなり常識破りのアプローチをしているように思えます。
灰色の紙にモノクロームの絵。しかもくまやことり、やまねこを灰色の用紙からぼんやりと浮き立たせるという、絵本を見た人でなければ味わえない世界を築きました。
挿絵をちりばめたページ。見開きいっぱいに絵が浮き出てくるページがあります。
かと思うと絵のない見開きページがあります。
しかし話を聞いている人間には見えない絵が浮き上がってくるのです。
これは確信犯です。
これだけのことをやってみせる絵本画家はいないのではないでしょうか。
酒井さんの絵ばかりの話になってしまいましたが、それをみごとに引き出しているのが湯本香樹実の文章。
「今日の朝」の言い回し、くまとやまねこの会話の展開。
全体としてとても味があって、機知に富んでいる。
無二のともだちのことりが死んで悲しみに包まれたくまさんですが、話にじめじめした所がありません。
こちらは、湯本さんの作品の数々を知って納得です。
絵本の大吟醸。
高学年以上に味わいのある絵本かと思いました。