夏になると全国のあちこちで「おばけ屋敷」がオープンする。
どうしてあんな怖いものをわざわざお金を払ってまで見に行くのか、臆病な私には理解できない風物詩だ。
いや「おばけ屋敷」だけではない。
怪談話にホラー映画、身も凍るような仕掛けにこの世は満ちている。
そして、「怪談えほん」だ。
絵本くらい、明るく夢のあるものがいいのに、どうして「怪談」なのだよと思いつつ、暑い夏くらいはせめて絵本でも身も凍りたくなるものかな。
この絵本も怖い。
ここでは聴覚は怖さを生み出している。
ちょうつがいの「きいきい」いう音である。
恐怖というのは五感に訴えてくるから始末が悪い。
この絵本の主人公の少年はちょうつがいの「きいきい」いう音から見たこともないおばけを見つけてしまう。
聴覚から視覚へと恐怖が移っていく。
その点では物語よりは絵本の方が恐怖感を生み出しやすいかもしれない。
「おばけ屋敷」などはこのあと触感などの移るケースが多いが、絵本だとそこまではいかない。
むしろ視覚が煽る。
この絵本でも恐怖の源泉は「きいきい」鳴るところにあるが、よく見ると、描かれている家も部屋も街もみんな怪しさに満ちている。
どころか、まわりの人がすでに異界のものたちだ。
となれば、この絵本の絵を描いた軽部武宏さんの技量を評価すべきだろう。
暗い部屋で、ぺたぺたと赤い絵の具を塗っている。
そう思えば、それだけで怖くなる。