1945年5月、当時 世界最大で豪華な船、ルシタニア号がアイルランド南沖でドイツの潜水艦に攻撃され沈没し1198人が死亡しました。その時、グランドピアノが海に浮かび、その上に女の子がいたことが目撃されているそうです。女の子がその後どうなったかは定かではありませんが、マイケル・モーパーゴはこの女の子に救いの手を差し伸べ、物語を紡ぎだしました。
ルシタニア号に乗る前、乗船中、沈没、救助後、医師の日記など、様々な場面が組み合わされて物語が進んでいきます。
ルーシーと呼ばれるこの女の子を助けるジム、妻のメアリー、息子のアルフィの ルーシーへの根気強く、温かいまなざしが全編を貫いています。ルーシーの過酷な運命に辛い気持ちになりますが、この家族の存在によって、常に小さな希望を感じることができました。愛情深い素晴らしい家族です。
記憶を無くし、言葉をしゃべることもできず、国籍もわからないルーシーの謎が徐々に明らかになる、たいへん読みごたえのある物語です。物語の起伏を楽しみつつ、戦争の愚かさ、それに翻弄される人々、その中でも人としての心と勇気と持ち続ける人、極限の中でも生きようとする強い意志など、様々なことが感じとれる力作でした。