【内容】
狂言「首引き」を、絵本に仕立てた一冊。絵は井上洋介氏。
都に上る途中、野原で若者は鬼の親子に出会う。鬼の娘が人間を始めて食べる(お食い初め)のに、若者がちょうどいいと捕まえられるが、若者はうまいことやって難を逃れていく。
【感想】
民話調の絵が懐かしい。昔のテレビアニメ「日本昔話」を思い出させるような、正統派?古典絵本。見ていて不思議な安心感があります。最近、私が読む絵本は、作者の想像力が飛躍していって、異空間に連れ去られるようなドキドキ感があります。どこに連れていかれるかわからない不安と期待の混じった体験ができるのですが、時々、「普通の話で落ち着きたい」という欲求が芽生えます。斬新なものもいいけど、いつも食べているお惣菜のような安心感のある体験も欲しい。疲れているのかしら…
さておき、狂言の時代から変わらない「子煩悩」。読んでいて、親バカだなあ〜と感じる部分が満載です。とにかく、父はかわいい娘に弱い。鬼の娘だから、さして美人ではなさそうなものだと思いきや、そこそこ美人に描かれている。…もっとも人間を化かして食べる鬼もいるくらいだから、鬼も女性は美しくうまれてくるのかもしれません。
自分の子どもだけ、自分の一族だけがかわいい、という親の鬼。自分自身すら愛せない人間もいる世の中で生きていて、きわめてまともな感じがいたします。自分の子どもを虐待して殺す人間のニュースが最近あったばかりなので、人間を食べるという鬼の「まともさ」をより強く印象的に感じました。
しかし、やっぱり、親バカは「バカ」の一種でして、娘に振り回され、結局失敗する鬼を、苦笑しながら見ていました。愚かさは、時代が変わっても変わらない。愛おしいものです。