2015年5月に亡くなった詩人長田弘さんの詩と『ルリユールおじさん』等で人気の高い絵本作家いせひでこさんの絵が合体した贅沢な絵本。
子どもが読むというよりも、子どもの頃を忘れた大人が読むのにふさわしい。
なんといっても、長田さんの詩がいい。
全文を紹介したいくらいだが、そういう訳にもいかないので、抜粋で紹介しつつ書いていこうと思う。
最初はこうだ。
「声をあげて、泣くことを覚えた。」
誕生である。この詩の断片につけられたいせさんの絵の赤ん坊にはまだへその緒がついている。
「泣きつづけて、黙ることを覚えた。」
赤ん坊は泣いて生まれ、そこからどんどん生きるための技術を覚えていくと、長田さんは美しい日本語で綴っていく。
そういう学びがしばらく続いて、幼い子は微笑を覚えるようになる。
長田さんは微笑のことを「この世で人が最初に覚える/ことばではないことば」と書いている。そして、それが「ほんとうに幸福でいられる」のはこの時だけではないかと問いかける。
それから幼な子はどんどん成長していく。
しかし、「何かを覚えることは、何かを得るということだろうか」と問いかけ、それは「違う。」と書く。
そのことに気づくのは幼な子がたぶんずっと成長してからのことだ。自分が赤ん坊だった頃のことを忘れてしまった頃。
「人は、ことばを覚えて、幸福を失う。/そして、覚えてことばと/おなじだけの悲しみを知る者となる。」
知ることで悲しみが増えていくのに、どうして人はもっと知ろうとするのだろう。
長田さんの詩の最後の一節は厳しい批評の目を感じさせるが、それはこの絵本を読んでもらいたい。