淡々とした文章運びの中に、重厚かつ繊細な表現がちりばめられていて、魅せられてしまいました。
いくつめかの たいようが うみから うまれた あさのこと。″こんな表現に出会うと、読んでいてお話の中に連れ込まれてしまいます。
さて、お話は、島に一頭しかいない気難しそうなゾウガメ。
勿論亀ゆえに、おしゃべりもなくこともできない。
そんなゾウガメの甲羅の上にとまっている一羽のヒワ。
明るくおしゃべりで、人生を謳歌する若い女性のようにも思えます。
このヒワの話によると、海の向こうにゾウという生き物がいて、その様子はゾウガメに似たところもあるようで、・・・・・・。
ここで、一方的に話すヒワの言葉に、内心喜ぶゾウガメの心象風景を表す文章がまた素敵です。
さて、ヒワは、「大丈夫。あたし確かめて来る。あんたは、大事な友だちだから、あたし頑張る」と旅立ちます。
このヒワのストレートで素直な思いの吐露にも心動かされます。
他の動物より長い年月を生きてきたゾウガメにとって、出会いは別れ(消失)と背中合わせで、命の儚さに大方失望していたので、ヒワが翌日から来なくなっても平気のようでしたが、・・・・・・。
終盤、ゾウガメが胸の内で、ヒワに語った言葉がまた心の奥に響きます。
この言葉が、ヒワに聞こえたというところで、涙がこみあげてしまいました。
このような気持ちで、家族をはじめ出会う人たちと向き合い共に生きていきたいと改めて思いました。
人生には、失ってから気づく尊いものがいかに多いことでしょう。
取り返しのつかない事態にならなければ、気付けないことも多く、それもまた未完に造られた我々人間の宿命でしょうか。
素晴らしい作品でした。
6年生の卒業おめでとうおはなし会″の候補作品として今年度は推したいと思います。