2003年春イラク侵攻がバスラに達した時に図書館の蔵書を守ろうとした図書館員とその友人たちの勇気ある実話を絵本にしたこの本のなかに、印象的な絵が二枚あります。
それは、このお話の主人公でもあるアリア・ムハンマド・バクルさんという図書館員の女性の顔を描いた絵です。
アリアさんは、「本は、黄金の山よりもずっと」価値のあるものと考えている人です。戦争の火でそんな本が滅んでしまうことは、彼女には絶対許せないことなのです。
だから、アリアさんは当局にも掛け合いますし、それが無理だとわかると、友人たちの協力を得て、図書館のたくさんの本を自分たちの手で避難させます。やがて、戦火は図書館にもおよびます。でも、アリアさんたちのがんばりで図書館の本のほとんどは助かりました。
そのあとに描かれた、二枚のアリアさん。
ひとつには「アリアさんはのぞみをすてません。」という文章がつけられています。
しかし、彼女の背景は暗い戦争の風景が描かれています。燃えあがる町、戦車や戦闘機の爆撃。アリアさんは悲しい顔をしています。
もう一枚のアリアさんにも、「アリアさんは戦争が終わるというのぞみをすてません。」という、先のものとよく似た文章がついています。でも、アリアさんの表情は、先のものとはまったくちがいます。
目を閉じ、柔らかな表情をしています。なぜなら、アリアさんのまわりには、美しい青い空と静かな湖が描かれています。
アリアさんが望む、それが平和の世界なのでしょう。そこには悲しみも嘆きもありません。
人は、平和の世界を夢みるとき、優しくなれる。
二枚のアリアさんの絵はそういうことを教えてくれます。
そんなアリアさんを育てたのは、たくさんの本だったにちがいありません。
最後のページの、たくさんの本に囲まれて立つ、強い意志をもった図書館員アリアさんをみて、そう思わざるをえませんでした。