若い時に読んでこなかった本を最近しきりに惜しくなっている。
そういえば、この絵本の原作である『遠野物語』もそうだ。
もちろん、作者名は知っている。柳田国男。民族学者である。
読みそびれた理由はない。ただなんとなく手をすべり抜けた。
この絵本はその『遠野物語』の一篇を京極夏彦が文を書いて、僧侶でもある中川学が絵を描いてできあがった作品だ。
遠野の山々には「山人(やまびと)」が棲むという。
絵本にも、ひらがなでふりがなが付けられているが「住む」ではなく「棲む」となっている。この漢字はどちらかといえば、動物とか人でないものにあてられることが多い。
これが冒頭であるから、もう怪しげだ。
ある時鉄砲撃ちの男が山奥で「やまおんな」を見つけて、撃ち殺す。そのおんなの髪の毛を持って下山しようとする途中で、大男に襲われてその毛を奪われてしまう。やまおとこだ。
遠野では毎年娘や子どもがさらわれる、そのあたりもこのやまおとこと関係しているのだろう。
ある時、猟師が何年か前にさらわれた娘を山中で発見する。
娘が言うには、さらった男は「ものすごく背が高く、瞳の色が違って」いるらしい。
『遠野物語』は明治43年に発表された岩手県遠野に伝わる伝承話や説話を集めた本だが、そういうことを思うと、この「やまびと」というのは、遠く海外から流れついた異人のことではないかと思いたくなる。
もちろん、もっと怪なるものを想像しても自由だ。
発想を柔らかにするのに、『遠野物語』を読むのもいい。