戦争の話です。
浅草観音のそばにあるイチョウの木は、カズヤ一家に愛され、カズヤ家族に親子三人で手をつないでだっこする「だっこの木」と名付けられました。
日本が戦争に突入し、カズヤ一家のお父さんは戦争に行きました。
東京に空襲が始まって、カズヤは疎開していきました。
残されたイチョウはどこへも行けません。
空襲の中で耐え抜いたのです。
戦争の話によく登場する、樹木の見た世界はとても貴重です。
戦争をはさんで起こった出来事、社会の移り変わりを見続けている生き証人なのです。
お父さんは戦争で亡くなりました。
カズヤとお母さんがイチョウを訪ねてきたとき、イチョウには戦禍で大きな空洞ができていました。
戦争を語り続けるイチョウに、戦争の傷跡が残りました。
そして、その空洞は母子にとってお父さんを思い出す空間だったのでしょう。
カズヤは大きくなって孫とイチョウを訪れました。
カズヤは自分の父親と、戦争の悲惨を伝えたかったのです。
渡辺洋二さんの絵がほのぼのとしていて、戦争のつらさがオブラートにくるまれたように心の中で溶けて拡がります。
戦争は人々の身近にあったことを痛感しました。