「みんなちゃんとそばで聞いてるよ!みんな笑ってるね!」
最後のページで息子が嬉しそうに言いました。
ーああかっこう。あのときはすまなかったなあ。おれは怒ったんじゃなかったんだ。
のところです。
たしかにゴーシュの家の周りには猫も、狸も、ねずみも、そしてかっこうや他の動物たちも寄り添うように描かれていますが、本当は一匹一匹は小さくてそれぞれの表情までは見えません。
でも、息子には笑って見えた、これはなんて素敵なことでしょう!
動物たちがゴーシュの最後のセリフを聞いていたかどうかは本文からはわかりません。さらに彼らが笑っていた、となれば、この作品の重大な解釈の問題になります。
けれどそんなことよりも、「動物たちが笑っている」と幼い心に感じさせてくれた、この絵本に心から感謝をしたいと思いました。
暴力的なまでにぶつかり合うゴーシュと動物たち…柔らかで耳当たりの良い教育が主流の現在、こんなにまで剥き出しのままの情感、感性がぶつかり合うことは親子の間であってもあまりないのではないでしょうか。
『セロ弾きのゴーシュ』にはわかりやすい愛の言葉はありませんし、むしろ幼児には暴力的な描写のほうが印象に残りかねません。しかしそこから、もちろん無意識的にではありますが、懐のふかい愛と赦しを感じとれたことに、絵本のもつ力をあらためて実感いたしました。
ゴーシュに限らず賢治の作品の絵本は、どちらかというと大人向きの余韻を楽しむような絵が多いように感じていましたが、この本には、決して子供騙しという意味ではない「わかりやすさ」があるようです。
その場にいるような目線の構図や、「インドの虎狩り」が響いてきそうなインパクトのある絵柄!そしてすべてを包み込むような圧倒的な優しさに溢れた最後の夜の景色…
小さな子供にも、そしてもちろん大人にも、賢治のメッセージがまっすぐに届く、すばらしい『セロ弾きのゴーシュ』だと思いました。