中川ひろたかさんのお母さんと伯父さんの実体験に基づいた作品です。
題名でわかるように、広島の原爆のことです。
16歳だったお母さんは、兄であり兵隊だった伯父に時々こっそり差し入れをしに行っていたのです。
その日、離れた島から、異常を察したものの、
お母さんは1週間後差し入れをしに兄を訪ね、惨状を知るのです。
長谷川さんの絵は、兵隊さんの様子や軍舎の雰囲気を活写していますが、
その日の様子は、その絵の迫力が違います。
抽象的に描かれた残像は、怖い印象ではなく、ひたすら、淡々と事実を伝えてくれています。
兄に会えなかった、という事実だけが物語ってくれています。
表紙の、穏やかな瀬戸内海の色で表現した平和への想いが伝わってきます。
原爆関連の作品は、とかく凄惨な重い印象を与えるものが多いのですが、
この作品は、瀬戸内海の海の穏やかさを通して語る、という視点で、
淡々とメッセージを受け取ることができるような気がします。
これが実体験であったこと、それを伝えなければ、という中川さんの思いを感じました。
そっと、子どもたちに手渡してあげてほしいです。