文章が柔らかく、刺繍の色使いも優しくて、ふんわりとした雰囲気はとても素敵だと思います。
ただ、お話がいけません。
すべて大人の目線でのみ描かれているから。
「ほんとうのわたしって なんだろう」
「わたしって なんだろう」
「ぼくは だれにも ひつようとされていないのかも」
これはもう、揺れ動く思春期の子どもが日記にだけ書くような、あまりにもベタな文章です。
大人も対象とした絵本『ぼくを探しに』だって、こんな言い回しは使いません。
子どもの本という形をとるのであれば、もっと文章に気を遣っていただきたいものです。
それに否定的な内容のページが長く、読者の気持ちを沈めていくのに、たった1ページで、“はい解消されました”としてしまう持って行き方は、強引すぎます。
本当に不安なら、その解消方法にはもっと力を注いで欲しいですし、ちょっとしたことで解消するくらいの不安なら、本の4分の3ものページを使って不安を訴える必要はないでしょう。
せっかく可愛らしい色合いの素敵な動物たちを刺繍しているのですから、彼らをもっと幸せにしてあげて欲しいです。