ヤマネコが旅に出る。
その決意を聞いたハリネズミ、
森の仲間に思い出を刺繍した毛布を用意しようと呼びかけます。
見送るものと見送られるもののそれぞれの思いを描いた、
とても強い印象の残る物語です。
絵も版画で黒く太い線のシッカリとした画風、
それぞれの思い出がぐっと立ち上がり展開していくような、
迫力があります。
みんながそれぞれに思い出すヤマネコとの時間。
決して楽しいだけじゃないような記憶なのですが
それすらも許せる、ヤマネコの気質があったのでしょう。
ふざけんなという態度のシマリスでさえ、
最後には見送る心で枕を渡しに来ます。
―ヤマネコは さっそうと 森をでていきます。
うわおん、うわわおん、うわわわうぉん…
ヤマネコの声には似つかわしくない、
心の底からのなき声に、心を貫かれます。
旅立ちというテーマは珍しくない気もしますが、
版画と思い出の刺繍を作るという行為、思い、
それぞれがとても調和した絵本で、心に響きます。
ヤマネコの毛布の重み、あたたかさ。
それが最後まで余韻となって、心地よい。
思わず手に取りたくなる絵本です。