「ハヤシもあるデヨ」。
昭和のコメディアン南利明さんがCMで使って、1970年代に大流行した名古屋弁だ。
その頃の子どもたちは、北海道であろうと東北であろうと東京であろうと大阪であろうと四国、九州、沖縄であろうと、みんな名古屋弁で話していた。
それから半世紀近く経って、今や名古屋は全国区。
名古屋には「うみゃあもん」がたくさんあることは、みんな知っている。
「ハヤシ」どころか、「キシメンもあるデヨ」、「ういろもあるデヨ」、「小倉トーストもあるデヨ」と、「デヨ」のオンパレード。
この絵本を開いて、あなたも言ってみて下さい。「○○もあるデヨ」。
長谷川義史さんの絵は名古屋の豪快さによく合っている。
名古屋城のでっかい金のシャチホコにも負けてはいない。
「みそカツ」「みそオデン」「みそ煮込み」の、みそ三兄弟とタッグも組んでいる。
信長、秀吉、家康も、長谷川さんにかかれば、名古屋人の皆さんと同じ。
それくらい、名古屋らしい絵本だ。
大阪に代表される関西人は東京に暮らそうが東北で暮らそうが、大阪弁にこだわりつづけている。
名古屋の人はどうなんだろう。
東京と大阪という大都市に挟まれて、肩身のせまい思いをしてるかと思いきや、まったく意に介さずに独自の文化を作り上げたような気がする。
特にこの絵本に描かれている食文化においては顕著だ。
東京にも大阪にもおいしいものはたくさんあるが、それに影響されることもなく、我が道をゆく。
名古屋の人たちにとって、東京も大阪も眼中にはない。
あるとしたら、「東京も(ついでに)あるデヨ」「大阪も(ついでに)あるデヨ」ぐらいの感覚だろう。
もっとも大阪出身の長谷川さんにとっては、なんとか大阪文化をしのばせたいと思ったのか、大阪を代表して「なんでやねん」をこそっといれているのが、面白い。
そんな長谷川さんであっても、名古屋の人たちは、「ようこそいりゃーた ゆっくりしてってちょ」と暖かく迎えてくれたのだろう。
長谷川さんの満腹顔が目に浮かぶ。