この絵本を読んで、谷川俊太郎さん文、和田誠さん絵による『あな』という絵本を思い浮かんだ人は相当の絵本通です。
この絵本は長谷川集平さんによる『あな』へのオマージュ(尊敬・敬意)なのです。
実は長谷川さんの代表作でもある『はせがわくんきらいや』は谷川さんたちの『あな』と同じ1976年に刊行されています。
きっとそのことがこの作品を描いた動機だったのでしょうが、長谷川さんは谷川さんたちの絵本にもっと大切なものを感じとっていたと思います。
この本の最後に、こんな文があります。
「ここに だいじなものが うまってる」
長谷川さんにとって、谷川さんと和田さんが開けた「あな」は、子どもの感受性や空想の世界をどこまでも広げてくれる「あな」そのものだったのでしょう。
全体が谷川さんたちの『あな』によく似ています。おかあさんやおとうさんや妹が来て、色々いう。けれど、少年は何かに夢中になっている。長谷川さんのこの絵本では、転校生のふくしましろうとのキャッチボールです。
これはうがった見方かもしれませんが、この転校生は福島原発事故で転校をよぎなくされた少年なのかもしれません。
そういうことを全部含めて、彼らが夢中になっていること。
それに意見するものがいるということ。
私たちの世界はそういうことで出来ている。
長谷川さんは谷川さんたちの絵本からそういうことを感じとのではないでしょうか。
この絵本に付いている帯に谷川さんがこんなメッセージを寄せています。
「集平さん、素敵な返球ありがとう! 穴に埋められた40年の年月が、絵本の中で今日の青空に溶けていきます。」
なんと素敵な言葉でしょう。
この絵本の中でひろしくんとしろうくんはキャッチボールをしているのですが、長谷川さんと谷川さんも絵本という世界で、言葉のキャッチボールをしているのです。
だから、40年という時間が一気に埋まってしまいます。
絵本にはそんな力もある、ということを改めて感じさせてくれた一冊です。