字の読めない子に読み聞かせをするとき、子は絵をよく観察しています。
大人の語りに耳を済ませ、そのページの情報と整合性を図りながら絵を読んでいるようです。字を読んでいるわけではありません。
ですが、この作者の絵本の多くには、本文ではないところに、手書きの文字がたくさん書かれており、読み聞かせに必要のない情報が多すぎます。
『うちのウッチョパス』に関して、とりわけ驚いたのが、「のぶみにおてがみを」、「アニメのウッチョパスはもうみたかな?どうだった?」との書き込み。
雑誌の連載漫画に添えられている編集者のコメントのようなものだと感じました。ですが、そのノリを絵本に持ち込む意図が分かりません。
また、「あんたイケメンさんね」というセリフが出てきますが、数年後、アニメが終わって、イケメンという言葉も死語になってからこれらの部分を読んだ人は一体どんな気持ちになるんでしょうね。
出版から何十年経っても面白い質の絵本というのは、長い時間をかけて一つ一つの言葉を推敲し、何度も絵を描き直し、編集者や出版社と議論を重ねて作られるものでしょうけれど、この作者は驚くほど短い期間に絵本を量産されているのも引っかかるところです。
他にも、過去の作品の登場キャラクター(しんかんくん、おばけになっちゃったママなど)があちこちに描かれています。
「この本にはいろんなものが隠されているよ」とご丁寧に、別の楽しみ方もできるということを提示されているのですが、『もりのかくれんぼう』のように、物語に関係のかる隠し絵ではなく、ウッチョパスの世界とは全く関係のないものなので、それらがチラチラ視界に入るたびに気になって、物語を100%楽しもうという気力を削がれてしまいます。
言葉づかいも気になります。
例えば「このひとぜったい嘘ついてるんだろうな」、「オエ〜、チッキショーこのやろう」など。
自分の子であっても他人の子であっても、このような物の言い方を覚えないでほしいな、と願います。
また、納豆のことを「食べ物じゃない、くさい、まずい」と書かれているのですが、納豆に関わるお仕事をされている方の顔を思い浮かべるととても悲しい気持ちになります。
恐らくこの絵本を通じて作者が最も伝えたかったことは、「アンたんとにぃにには、悪いとこ一つもないでちゅか!悪いところがあるからって!すぐにさよならしていたら!!みんなみーんないなくなっちゃいまちゅよ!!!」の部分でしょう。
ですが、読み進めてきた各ページに散らばる煩雑な情報に加えて、この妙な幼児語です。余計なものが多すぎて、全く心に刺さりません。
キャラクターの表情、刺激的な言葉遣い、みんな大好きなウンコなどで単純な笑いを誘うことはできているかもしれませんが、本当に伝えたいことをまっすぐに伝えることができていません。
盲目的に「のぶみさんの本だから全部好き、面白い」と思っている方は、一度立ち止まって考えてみてください。
大人も子供も、絵本を読んで優しい気持ちを育ててほしいです。