宮沢賢治の『チュウリップの幻術』で素晴らしい絵を描いた田原田鶴子さんが、この本の絵も描いています。
それが、この幻想的な物語にぴったりで、ずっと『銀河鉄道の夜』の絵本を探していた身としては、嬉しい限りです。
長い物語ですし、絵のないページもたくさんあるので、絵本というより、時々とても美しいカラーの絵がついた童話といった方がいいでしょう。
ジョバンニ、カムパネルラや、ケンタウルス祭など日本的ではない名前が出てくるので、最初から“ここではないどこか”の世界にすーっと引き込まれていきます。
お祭の夜に一人丘に寝転ぶジョバンニの元に、銀河鉄道がやってきたと思うと、もうジョバンニは汽車の中にいて、隣にはカムパネルラがいる・・・というところは有名ですが、その先のいろいろな駅で乗ってくる人々の様子や、窓から見える景色については意外と知られていないのではないでしょうか。
手旗信号に従って渡っていく渡り鳥の群や、十字星を通る時に響き渡るハレルヤコーラスなど息を飲むほど美しいシーンも出てきます。
鳥を獲る男が、雁の足をポキリと折ってくれたものが、お菓子よりも美味しかったりと、不思議で楽しいシーンも出てきます。
この物語にも、自己犠牲に関する話がテーマのように語られますが、きれいに物語の中に溶け込んでしまうので、お説教くさくならずに、物語の美しさを損ないません。
文章も絵も、とてもとても美しい宝箱のような本になっています。