ひろしくんが日曜日にあなを掘って、埋めるというだけのお話なんですが、そのあなはとても奥深くいろんなものが詰まっている気がします。
まず、ひろしくんがあなを掘り始めるのは朝で、埋めてしまったときには日も暮れていますから、ひろしくんは丸一日あなに費やしています。お昼ごはんを食べるのも忘れています。こんな時間の使い方ができるって、なんかうらやましい。
それから、あなに没頭しているひろしくんが気になって声をかけてくる人たち。たった一言で気持ちが通じて、みんなそれ以上邪魔をせず、放っておいてくれる。これぞ理想の人間関係。
自分だけのあなを掘ったという達成感はいうまでもなく、視点が変わったからこそ見えた景色や土の壁の感触、虫との出会い、満足感など、得たものもたくさんあります。
あなを埋めてしまったことはすこし意外でした。まるで何も起こらなかったかのようですが、ひろしくんの心の中にだけに残る出来事というのも、それはそれで贅沢なのかもしれません。
この本の魅力を知って欲しくて、ひろしくんのような一見無駄のようだけどとても大切な経験を味わって欲しくて、小学校の2年生のクラスで読み聞かせをしました。
みんな真剣に聞いてくれて、読み終わったときには満足感に満ちた顔をしていました。そんな子どもたちの顔を見て日本もまだまだ捨てたもんじゃないなと実感しました。