なんて美しくて静謐な雰囲気の絵本なのでしょう。ページを開く前からなにかとても尊いものが、この中にあるように感じられました。
読み進めていくと、その予想は当たっていました。
絵本の中で描かれるのは、「せんせい」と呼ばれる一匹の犬と重い病気を抱える子どもたちの、尊い心の交流です。
病気の子どもたちにじっとよりそい、ただ一緒にいることで、どんなお医者さんにも薬にもできない治療をする「ファシリティ・ドッグ」の存在。これまで耳にしたことはあったものの、どうして子どもたちは元気になるのだろう、犬にはどんな力があるのだろう、と不思議に思っていました。けれども、この絵本を読んでいると、いつの間にか病気の子どもたちの気持ちになっていて、「せんせい」に会えるだけでどんなに嬉しくて心強いか、ほっと安心できるか、ということが身をもって感じられました。「せんせい」のふわふわの毛に触れる気持ち良さもたびたび伝わってきて、どんなに子どもたちが「せんせい」を必要としているかが伝わってくるようでした。さらに、子どもたちだけでなく、病気の子を抱える親たちの心をも「せんせい」が救ってくれていることが分かります。病気というつらい世界の真っ只中にいる子どもたちとその家族にとって、「せんせい」の存在はどんなに心の助けになっていることでしょう。そのことが、自分事のようにこの絵本を通して感じられます。
前見返しに描かれているたくさんの子どもたちと、後ろの見返しに描かれている子どもたちの絵にも、とても惹かれるものがありました。まっすぐ何かを訴えてくるようにこちらを見つめる陰りを帯びた子どもたちの表情と嬉しそうに笑っている表情の対比。子どもたちが笑っているということは、なんて明るく、大切なことなのでしょう。
「なぜいぬがびょういんをうろちょろしてるんだ!」と怒鳴って尊い世界を壊してしまう頭でっかちな男の人のようにならないように、どんな状況においても想像することを忘れず、大切なことは何かを感じ取れる柔らかな感性を持った大人でありたい。そうした大人が増えていくことが、日本に「ファシリティ・ドッグ」を広めていく第一歩なのではないかと、この絵本が教えてくれたように感じました。