ある一日。
「アンジュール」が犬の名前ではないことに、この本のとても大きな重さを感じました。
ある日、一匹の犬が車から放り出されました。
車が去っていきます。
犬は必死で追いかけます。
衝撃的な出だしですが、車に乗っていた家族にも理由がありそうです。
引っ越していくのでしょうか?
引っ越し先では犬を飼うことはできないのでしょうか?
犬が見送る車の遠景。
放浪が始まります。
でも、何度も読み返すうちに、犬って孤独を知っているのだろうかと思い始めました。
人恋しさ、家恋しさが本当かもしれません。
だからさすらうのです。
車の往来に飛び出して、大事故が起こります。
犬にとっては、車は自分をドライブに連れて行ってくれる愛着のあるものだったのです。
何が起こったのかは分からないけれど、自分がとどまる場所ではなさそうです。
人を求めてさまよう犬。
飼い主から見放された犬は、他人からすると疎ましい生き物でもあります。
そして、やっと自分を受け入れてくれる人に出会いました。
この人物が決して幸せそうに見えないことが気がかりです。
バンサンは、荒々しいデッサンをまとめてこの犬の「ある一日」を描きました。
言葉がないので、取り方感じ方はいろいろでしょう。
象徴的な出来事がちりばめられています。
白地に木炭の黒だけで描かれた犬。
わずかな黒でとても奥行きのある風景と心象を描いています。
かみしめるほどに味わいのある作品です。