読み終えた感想は、一言で言って絵本の域を超えているということ。
その読後感の余韻は、クリス・ヴァン・オ−ルズバーグの作品を読み終えた時と同じような言い知れぬものがありました。
訳者のあとがきに下記の通りのコメントがあります。
『広大なミシシッピのデルタ地帯、20世紀初め、ミシシッピ州キャントンとテネシー州メンフィスを結ぶイリノイ・セントラル線で、ジョン・ルーサー・ジョーンズが運転するキャノンボール号が走っていた。
線路沿いの綿花畑で、黒人達は長時間働いていた。
この綿花畑で働く大勢の大人や子供達にとって、猛スピードで北へ向かって走るケーシーの巨大な機関車の姿と、トレードマークの長く鳴り続ける汽笛の音は希望の象徴だった。
加えて、この時代にアイルランド人のケーシーが、黒人のシム・ウェップを助手として一緒に働いていた事実は、かつての奴隷制度により痛手を受けた人や、アメリカ人として対等に扱われることを求めていた人たちの希望を膨らませたに違いない。
それゆえ、1900年4月の嵐の夜に起こった衝突事故でのケーシーの悲劇的な死は、稀有のヒーローだっただけに、市民権を与えられていなかった黒人コミュニティーに強い衝撃を与えたことは無理もない。』
そんな背景があって、実話を描いた作品です。
機関車を描いた絵本ですが、一般で考える機関車の絵本とは一線を画する作品だと言えるでしょう。
根底に、希望を持って生きることの大切さを訴えかけてくるような作品です。
その絵は、とても重厚であって、深い背景を正に象徴しているような作風だと言えると思います。
文章の語り口も、心に響いてくるもので、叙情的ですらあると言えます。
対象は、小学生中学年以上とありますが、本質を知るには中学生くらいからでないと理解出来ないかもしれません。