偶然手に取ったこの絵本に魅入られてしまった。
「あこがれの機関車」アンジェラ・ジョンソン
主人公は、ミシシッピで家族で綿花摘みをしている黒人の少年。少年には憧れているものがある。
南から北へと走る機関車だ。そして、機関車を走らせる機関士のケーシー・ジョーンズにも。
機関車は、苛酷な現実から希望の土地へ少年を運んでいってくれるものであり、黒人の助手と一緒に機関車を運転する、勇敢なケーシー・ジョーンズは、少年にとってのヒーローである。そして、ケーシーの鳴らす、少年の心に強く響く特徴的な汽笛は、希望の象徴なのだ。
少年の父親の、
「汽笛が遠ざかっても その音は昼も夜も1日中鳴り続け、お前の心に語りかけるのさ」
という言葉が心にしみる。汽笛は、まるで少年に何かの覚醒を促しているかのようである。
初めは、受け身だった少年は、ケーシーの悲劇的な事故を機に変わる。絶望する少年に父親は、
「いいや、終わりはしないさ。他の列車や機関車がかならずあらわれる。」
と語り、少年は、自分の身近にずっと同じ思いを抱えていた人間がいたことに気付くのだ。
同じ思いや願いを分かち合えることの力強さが、感動的に胸に迫ってくる場面だ。
そして、本文もそうだが、どことなく、クリス・ヴァン・オールズバーグに似ている絵も、素晴らしい。
特に、本文6ページの絵が詩的で心に残る。少年が線路を伝い歩く場面で、線路の下は池のようだ。少年の足元には、帽子をかぶった男の影が映り、水面にはハスの葉が浮かび、波紋が広がっていく。少年の心の中でケーシーへの憧れが育っていく心象風景を見事に表した場面だと言える。
ただし、この話は事実を基にしてあるそうで、そんな事情から起因してか分かりにくい部分もあるのではないかと思う。巻末に、簡単に機関士ケーシー・ジョーンズと彼の悲劇的な事故、その時代の黒人が彼に寄せる気持ちを簡単に説明してあるのだが、それを読んだとしても、本文にこれはどういう意味なのだろうかと首を捻らざるを得ない部分があった。
しかし、その部分を差し引いたとしても、この作品の持つ力強さは心を打つ。
筆者の、アンジェラ・ジョンソンは他にも作品を描いているようだが、そちらにも興味が出てきた。