絵本は、絵と文の配分が絵の方が多いものをいうのだろう。
文が多くなれば童話もしくは物語となって、絵は挿絵と呼ばれるようになる。
だから、絵で多くを語ることになる。
あべ弘士さんの、今は絶滅したエゾオオカミの物語を描いた絵本も、壮大な大河のような物語が文字で多くを語るのではなく、絵がそれを伝えている。
ある寒い夜、小さなモモンガたちがふくろうから物語を聞く場面から始まる。
まるで、年老い知恵者から昔話を聞くような始まりは、物語の導入部として期待が高まる。
ふくろうが語り始めたのは、昔北海道に生息していたエゾオオカミのこと。
あべさんはここで一匹のエゾオオカミの全身を描いている。
ここからすでに物語は始まっている。
かつて、シカと共存していたというエゾオオカミ。シカを殺して食べることでエゾオオカミは生き、シカもまた数のバランスを保っていたという。
ある年、大雪が降って、シカがいなくなった。
エゾオオカミは仕方なく村の馬を襲う。
いのちのバランスが崩れた瞬間だ。
人はそんなエゾオオカミを殺して、絶滅させてしまう。
わずか100年ほど前のこと。
あべさんの絵は写実ではないが、描かれる動物たちの鼓動が聞こえる気がする。
強い鼓動であったり、深い息づかいであったりを感じることができるのが不思議だ。
長大な抒情詩ともいえるこの作品で、文字数は限られているが、絵は多くのことを語っている。
そう、まるで100年の時間のような悠久を。