新潮文庫「さまざまな迷路」(1983年)、「かぼちゃの馬車」(1983)、「どんぐり民話館」(1992)を底本に、15の短編を収録。
スパイや犯罪、SF、神話、日常生活や身近なものをテーマにした不思議で面白い。読み終わった後に少々考えさせられるような印象深い話も多く、大人も楽しめる。
社会の問題を連想させる話が印象に残った。
ロボットに税金や人権を適用させるかどうかでもめる話は、新しい技術が開発されて普及することによって、社会の仕組みが変わったり、新しいタイプのもめ事が発生したりすることを連想させるた。
今、インターネトを使った誹謗中傷などの人権侵害、犯罪などが頻発して話題になっているが、この本の話のように、いつかは人間に近いコンピューターがいろいろと問題になるのかもしれない。
テレビ局の建物に入った人が出られなくなる「出口」という話では、事件が起きて混乱していく人や、好奇心で野次馬をしに来た人の愚かな顛末、騒ぎが大きくなっていく様子が生々しい。
ちょっとした好奇心や、後先考えないで行動した結果、無駄に事態が悪化していく様子は、どこにでもありうる。筆者は冷静に、社会の動きや人の心の変化を観察している。
どれも30年くらいは前に書かれた作品なのに、古さを感じさせない。人間の普遍的な愚かさや、心のありようをテーマにしているからだろうか。妙にリアルだ。都市伝説系の怖さもある。