1942年、ルーズベルト大統領の特別指令で米国西海岸域に居住する日系人たちは砂漠の中の収容所に移動させられました。ある日突然、敵国日本から来たという理由で家も財産もすべて没収され収容所に送られた当時の日系人たち。この絵本には、収容所生活を体験した一人の日系少年の目を通して、当時の彼らを取り巻いた生活と背景が克明に語られています。
野球というスポーツはヨーロッパ系白人社会の米国にあり差別を受けていたアジア系、とくに日系社会では大きな役割を果たしたスポーツ。日系社会の結束を深め、一世(日本語を話す世代)と二世(英語を話す世代)の橋渡しをし、厳しい社会状況にあってコミュニティーの中で心休まる娯楽の役目も果たしました。
そんなことを理解しながら読むと、当時収容所でチームを作り野球に夢中になった日系人たちの心情や、戦争が終わってから味わった屈辱をホームランに託した主人公の姿がくっきり浮かび上がってきて胸が熱くなります。
ちょうど先日、息子の小学校でこの作品の劇団公演がありました。当地では、特に教師の間で高く評価されているこの作品。(英語名は「Baseball Saved Us」)韓国人画家ドム・リーの温かみがあって写実的なイラストも、作品の深さに貢献しています。日系人の歴史を語るのに最も適した作品。小・中学校の歴史の授業にもよく利用される絵本です。