子供たちにとって最もなじみのある果物のひとつ、りんごが主人公のお話です。木から落ちてしまってなにも見渡せなくなったりんごちゃんを、夜になると風見鶏が背中にのせて飛んでくれるのですが、りんごちゃんの視点の切り替わりが本当に鮮やかとしかいいようがありません。
芝生の上でさめざめと泣くりんごちゃんが、木になっていたころを思い出して上をみあげると、木にかかった月が(ブルーナ絵本にしてはかなり珍しいことだと思うのですが)輪郭がなく、遠くぼんやりと光るようすが描かれています。りんごちゃんから木までの物理的な距離はもちろん、心の距離までも感じられそうです。
りんごちゃんの優しい理解者である風見鶏が「こんやきみをせなかにのせて たびにつれていってあげよう」と申し出てくれるページでは、風見鶏の顔が大きくクローズアップされていて、表情はずっと同じなのにもかかわらず、明るいほうへと物語が展開するのを感じます。
空から見える家・その窓から見える室内・室内のこまごまとした品々へとりんごちゃんの視点が切り替わり、最後にはまた遠くで光る月を背景にもとの役割にもどったただの風見鶏が屋根の上にちいさく描かれ、物語はおわりへと向かいます。
結局りんごちゃんは短い旅のあと、また芝生の上に戻ります。でもその表情は明るく、なにか静かなやすらかさを感じさせてくれます。語りかける言葉も独り言ではなく、読み手の子供に対する言葉のように響きます。夜眠るまえに読んであげると、とてもやさしい夢がみられそうな絵本です。