いろいろな作風を見せる作者なので、ずっと気になっていた作品。邦訳タイトルが原書『The Conquerors』にはないインパクトを生み出していて、そんな意味でも興味をそそられました。
「大きな国の 人びとは、じぶんたちの くらしほど すてきなものはないと、かたく しんじていました」「われわれが せかいじゅうを せいふくすれば、みんなが われわれと おなじように くらせるのだからな」――。読む前から無意識のうちに「せかいでいちばんつよい国」=「米国」と決め付けて、その対外政策を風刺した絵本と勝手にイメージしていましたが、意外にもその手のいやらしさはなく、逆にやさしい子守唄が聴こえてくる心あたたまるお話でした。人と向き合うときどんな心を抱けば通じ合えるのか、そんな人間としてもっとも大切なメッセージを届けてくれます。軽やかな色合いのペン画もいいのでしょう。大国VS小国という重いテーマをユーモアと平易さで鋭く描いた、後味の優れた絵本です。
読後の余韻に浸りたくて「大統領は最後に何をしたんだっけ?」と、くどいのを承知で息子に尋ねると、「歌を歌ったんだよ」――。こんな穏やかな気持ちで読み終えられるとは、想像もしていませんでした。