2001年9月11日、その日起こった事件のことはよく覚えています。
事件を伝えるTV中継のその最中に、また一機の航空機が
背の高いビルに突っ込んで、ビルは崩壊します。
3000人近い人が亡くなり、25000人以上が負傷した
世界を揺るがす大事件です。
のちにアメリカ同時多発テロと呼ばれます。
この時崩壊したのが、
ニューヨークにあったワールドトレードセンターの高層ビル2棟でした。
今はこの二つのビルを見ることはありません。
2つのビルが完成間近の、1974年8月7日の朝、
2つのビルの間に張られた一本のロープを
綱渡りで渡った男がいました。
この絵本『綱渡りの男』(作 モーディカイ・ガースティン)は、
その青年フランスの大道芸人フィリップ・プティが
どのように綱を張って、
綱の上でどんなパフォーマンスをしたかを描いた作品です。
翻訳をしているのは、映画評論家の川本三郎さん。
川本さんが絵本の翻訳(この絵本は2005年刊行)をしているのは知りませんでしたが、
そういえば、この絵本はまるで映画を観ているような
大胆な構図と大きな画面が伝わるように工夫されています。
この絵本は単に綱渡りという大道芸を描いた作品ではありません。
今はなくなった2つのビルのことを思い出し、
ビルがなくなった原因に思いをはせることです。
そして、そのあとに起こる憎しみの連鎖のことも考えてみましょう。
同時多発テロを知らない多くの若者たちに
この絵本は静かに問いかけているように感じます。