インタビュー
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2023.06.23
妖怪好きなみなさん、お待たせしました。ろくろ首や河童、一反木綿などたくさんの妖怪が登場するだけでなく、彼らが頼りにしている腕利きの先生が活躍する「ようかいのもり」シリーズ。一作目の『ようかいのもり たぬきクリニック』は絵本ナビでもレビューコンテストを行い、たくさんの感想が集まりました。それから約1年、この度、再びたぬき先生と妖怪たちが登場する、ユニークで夏にピッタリな新作『ようかいのもり まっくらまつり』が出版されます。今回はどんな妖怪が登場するのか? 前作でたぬきクリニックにやってきた妖怪は出てくるのか? たぬき先生の意外な特技とは……? 気になる新作の内容について、長谷川あかりさんにお話しをうかがいました。
出版社からの内容紹介
今日は、年に一度のようかいたちのおまつり!さてどこからのぞいてみようかな?のっぺらぼうのおめん屋さん、ゆきおんなのかき氷、ひとつめこぞうのたこ焼き。今年もたくさんの屋台が並びます。子どもも大人もたぬきせんせいも、食べて遊んで、最後はやっぱり盆踊りのはずでしたが…!?ようかいのもりでおこる出来事に、たぬきせんせいが大活躍の可愛くて楽しい絵本。
この人にインタビューしました
多摩美術大学グラフィックデザイン学科を卒業。その後、イギリスに留学しイラストを、あとさき塾で絵本を学ぶ。絵本作家、イラストレーターとして活躍。著書に「ようかいのもり」シリーズ(大日本図書)などがある。ニベアクリーム2021年限定デザイン品のイラストと絵本を担当した。
───『ようかいのもり まっくらまつり』の発売、おめでとうございます。この絵本は『ようかいのもり たぬきクリニック』の続編ですが、一作目が発売されたときから、次回作の構想はあったのでしょうか?
ありがとうございます。一作目が発売された際に、編集を担当してくださっている山本さんから「二作目を作ってみませんか?」とお声がけいただきました。「ようかいのもりの世界を更に広げられるんだ…!」と思うと、飛び上がるほど嬉しかったです。
「森の中には、他にどんなお店があるだろう?どんな出来事が起こるかな?」と6〜8案くらい簡単な設定とおはなしを考えてお見せしたら、2作選んで頂けました。両方ともラフを描いてみて、その中のひとつ『ようかいのもり まっくらまつり』を二作目として制作することになりました。
───もう一作の方もどんなおはなしなのか、とっても気になるところですが、『ようかいのもり まっくらまつり』は今の時期にぴったりのお祭りのおはなし。ページをめくりながら、たぬき先生と一緒に屋台を回るわくわく感を味わえるのが何より楽しいです。妖怪と屋台の組み合わせには、どんな部分をこだわりましたか?
妖怪の特徴や強みを活かしながら、子どもたちがページをめくったときに、「びっくり!」「おもしろい!」と思ってもらえるような組み合わせを探りました。 気になる妖怪と屋台を羅列して、それぞれを掛け合わせたらどうなるかな? と想像していきました。
例えば「のっぺらぼう×おめん屋さん」。
顔のないのっぺらぼうが、おめんを被ったまま登場することで、おめんを取ったときに子どもたちが「わぁ!」と驚いてくれたら嬉しいなと、想像しながら選んでいきました。
───たしかに、のっぺらぼうがおめんを取ったときはビックリしました! お店を登場させる順番などもいろいろ考えたのではないですか?
はい。今回は絵本に書かれていない設定やお店の位置などを整理しました。例えば、屋台の並び順、盆踊りはどこで行うか、そもそもお祭りは、森全体のどこでやっているのか……などを考えて、個々の妖怪たちの動きをまとめた表も作ったりしました。 直接、絵本の中では登場しない部分もありますが、これらを考えておくことで、物語の辻褄が合い位置関係が明確になるので、背景を描く時にとても役立ちましたし、おはなしの土台をしっかりさせることができたと思います。なにより、設定を考えるのはとても楽しかったです!
───屋台の配置と妖怪たちの動きが、こんなに綿密に設定されていたなんてビックリです! 長谷川さんが買ってみたいまっくらまつりの屋台の品物はありますか?
「山姥の薬草サイダー」の屋台で売っている「おやすみなサイダー」です。 飲むとぐっすり眠れる薬草が入っているのです。寝床で面白いアイディアを思いつくと、楽しくなってなかなか寝付けないことがあるので、ぜひ、寝る前に飲んでみたいです。山姥が山奥で取ってきた薬草であれば、かなり効きそうだなぁ……と、効果に期待しています(笑)。
また、かみなりさまの「あまぐもわたあめ」も食べてみたいですね! 怖いもの見たさですが、雷のバチバチ感を体感してみたいです。
───たぬき先生が何に変身するかも一作目同様、読者が楽しみにしている部分だと思います。たぬきならではの大太鼓に大変身! 太鼓を叩く姿もとてもりりしいですね。たぬき先生を何に変身させるかは、すぐに思いつかれたのですか?
最初は「お祭りらしい何かに変身させたいな」という、ぼんやりとしたアイディアでした。 ラフを描きながら、屋台で食べすぎた、たぬき先生を見ていたら、小さい頃、お腹いっぱい食べた後に家族でお腹を叩いて「太鼓ごっこ」をした事を思い出しました(笑)。「そうか、太鼓ならお祭りにもぴったりだし!」と、たぬき先生を太鼓に変身させることにしました。
───おはなし作りでは、何度もやり直しをすることも多いと思いますが、今回の『ようかいのもり まっくらまつり』ではどんな所が変わりましたか?
まずひとつは登場人物です。当初、たぬき先生は孫のぽんちゃんと一緒に、お祭りに出かける話だったのですが、「たぬき先生なら一人でも出かけるのでは?」というご指摘を受けました。先生の性格を思えば確かにそうなんです! 登場人物がひとり減り、ぽんちゃんの行動をかみなりの子どもにやってもらうことで、おはなしも絵も、シンプルでわかりやすくなっていきました。
ふたつめは、火の玉すくいのシーンです。最初は見開きの半分のサイズのシーンだったのですが、最終的には見開きで見せる事なりました。絵本の見せ場になって、変更してよかったな! と思っています。
あとはやっぱり盆踊りのシーン。ここはおはなしの中でも一番の見せ場なので、たくさん試行錯誤しました。
───お祭りは子どもにとってワクワクする夏のイベントのひとつですよね。長谷川さんのお祭りの思い出や経験が、この絵本で生かされているのでしょうか?
お祭りは大好きで、コロナで中止になったとき以外は毎年行っています。夜の闇の中、屋台の暖簾をくぐると、そこは煌々と明かりが灯っていて、屋台の人がお客の目を惹くために作った思い思いの飾り付けや仕掛けに、いつも魅了されます。暖簾の外とは別の世界に来たようなその雰囲気が好きで、絵本でも表現したいと思いました。
───暖簾の外と内側が別世界というのは、このおはなしの表紙からも想像できるように思いました。
表紙は本屋さんで一番に読者に見てもらうものなので、読者の方が手に取ってくれるようにと、一作目とのバランスも頭に入れながら、何パターンか考えました。
───妖怪の絵本を作りたい、たぬき先生を登場させたいという、おはなしの種はどのように生まれたのですか?
もともと、魔女やモンスター、妖怪など不気味な世界、不思議な世界の生き物が好きで、当初は人間の子どもが不気味な健康診断に迷い込むお話を考えていたのですが、それなら妖怪と病院を組み合わせたお話にしてみようかなと思いつきました。
たぬきを主人公にしたのは、一見、妖怪だと気づかれにくいからです。
子ども達に、お話の途中で「たぬき先生って、妖怪だったんだ!」「え、変身できるの?!」と驚いてもらいたいな、と思いました。
───たしかに『ようかいのもり たぬきクリニック』でたぬき先生が変身したとき、「変身できるんだ!」と驚きました。このおはなしは特にたぬき先生の大らかな人柄、包み込むようなモフモフの毛、どんな患者にも丁寧に優しさとユーモアを持って対応する姿勢にも魅力を感じます。たぬき先生にはどなたかモデルがいらっしゃるのでしょうか?
当初、たぬき先生にモデルはいなかったのですが、完成後家族に見せたところ、私の父にそっくりだと言われました。確かにぽっちゃりして、のんびりした感じは父に良く似ています(笑)。
───きっと長谷川さんのお父さんへの思いが、たぬき先生に反映されているんですね。たぬき先生をよく観察すると、毛などとっても細かいタッチで描かれていることが分かります。絵本を描くとき、どのような画材を使っているのですか?
アクリル絵の具で、細い筆を使って描いております。たぬき先生の毛をふんわり、ふさふさに描きたいなと思い一本一本丁寧に描くことを心がけています。 美大生の頃から細い筆を使っていると、先に癖がついたり、毛先が広がってきてしまう事が悩みでした。最近はお手頃かつコシのある筆を見つけたので、その筆を何本が溜め込んで毛先が丸まってきたら取り替えるようにしています。一冊の絵本で大体6〜8本くらい使います。
───そんなにたくさん筆を使い込んで描いているんですね。制作の中で特に難しさを感じたところはありますか?
制作中ではないのですが、一作目、二作目ともに、色校正で難しさを感じたのは、かみなりの子の肌などの透明感のある赤い色の再現でした。印刷の特性上なかなか難しいとうかがい、勉強になりました。また、たぬき先生のフサフサの毛を柔らかく表現することにも力を入れました。編集の山本さんとデザイナーさん、印刷会社さんのお力をお借りして、満足の行く表現に持っていくことが出来ました。
───妖怪は、怖く描こうとすればいくらでも怖くなりそうですが、長谷川さんの描く妖怪はみんな愛嬌があって、可愛い妖怪ばかりですね。妖怪を描くときに気を付けていることなどありましたら教えてください。
打ち合わせを重ねていく間に「この絵本の良さは妖怪が怖くない事ではないかな?」と言われました。「確かにそうかもしれない!」と思い、可愛らしく描くように気をつけました。
読者の方から「小さな子でも怖がらずに読めました!」という声もいただき、怖くない妖怪を描くことでより幅広い層の子どもたちに楽しんでもらえるんだな、と嬉しく思いました。可愛らしく描くポイントのひとつが、ほっぺたを赤く描くことです。個人的にほっぺが赤くなっている子どもが可愛くて大好きなので、普段からキャラクターは、ほとんどほっぺを赤くしています。
また、“ようかいのもり”の妖怪たちは、現代を生きている設定で、それが怖くない妖怪になった理由のひとつかもしれません。 例えば、ろくろっ首は一作目で、絵巻物(人間界で言うところのファッション雑誌)を見ながらいろんな首スタイル(人間界でいうところのヘアスタイル)を試しています(笑)。伝統を守りつつも、私達と同じ現代を生きている妖怪たちをコミカルで親しみやすく描きたいと思っています。
───「ようかいのもり」のおはなし、たぬき先生の活躍はまだまだ続きそうですね。話せる範囲で、今後の展開、次回作の構想など教えていただけますでしょうか?
ありがとうございます! 『ようかいのもり まっくらまつり』の最終ページで「まっくらまつり」の協賛者の名前を看板に並べているシーンがあるのですが、編集の山本さんが、それを見て「たくさんおはなし作れますねー!」と言ってくださりました。嬉しかったです! 次回作の構想は、妖怪の森の中で起こる面白いことや不思議なこと、楽しいお店や施設などを描いていけたらいいなと思っています。
───最後に絵本ナビユーザーへ『ようかいのもり まっくらまつり』をどのように楽しんでほしいか、メッセージをお願いします。
扉ページの真っ暗な獣道を抜けて、次のページを開くと、たぬき先生と同じ目線でお祭りの風景を見ることが出来ます。最初はもう少し俯瞰の構図だったのですが、たぬき先生の目線の構図に変更しました。その方が絵本の世界の中にいるような雰囲気になるからです。子ども達が「妖怪のお祭りの世界に飛び込んだような気持ち」になってほしいな! という思いを更に込めて制作するきっかけになりました。 体ごと絵本に飛び込んで、妖怪たちのちょっと変わったお祭りを楽しんでくれたら嬉しいです。
また、妖怪が「すごく素敵だな」と思うのが、皆それぞれ「個性豊か」な所です。 妖怪の森の妖怪たちは、それぞれの個性を良さとして認めあっていて、困ったら助け合い、一緒に笑いあいながら生きています。戦争や争い事など世界では、悲しい出来事も続いていますが、子ども達が「自分と違う他の誰か」と尊重しあえるような関係を大切にしてくれたら嬉しいなと思います。
最後になりましたが、絵本を読んでくださった読者の方々、興味を持ってくださった方々、絵本ナビのコメントや、出版社さんにお手紙を送ってくださった方々、本当にありがとうございます! すべて拝見していて、温かいメッセージがとても励みになっております。
『ようかいのもり まっくらまつり』は一作目を読んだことない方も、楽しめる内容になっております♪ 一作目を読んでくださった方も、そうでない方も、是非ご覧いただけたら嬉しいです!
会期:2023年9月13日(水)〜19日(火)
11:00〜18:00(最終日:17:00まで)
場所:ブックハウスカフェ ギャラリーこまどり
住所:〒101-0051 東京都千代田区神田神保町2-5 北沢ビル1F
TEL:03-6261-6177
文・構成/木村春子