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絵本ナビホーム  >  スペシャルコンテンツ  >  インタビュー  >  「おおきいかいぶつとちいさいかいぶつ」シリーズ 原作者インタビュー

アイスランドをはじめとする北欧で生まれたユーモラスな絵本「おおきいかいぶつとちいさいかいぶつ」シリーズの3冊目となる日本最新刊『かいぶつかぜ』が2023年11月2日に発売されます。

物知りで賢い「ちいさいかいぶつ」とやさしくて気弱な「おおきいかいぶつ」の、ケンカしつつも仲が良い様子を、インパクトのある絵と文で表現した本シリーズ。日本で刊行されたシリーズ作品の紹介と併せて、訳者・朱位昌併さんが、原作者のひとり、アウスロイグ・ヨウンスドッティルさんにインタビューした模様を紹介します。

【2023年11月29日更新】イベント情報続報

公開講演会「アイスランド現代文学と翻訳」

開催日:2023年12月20日(水)18:30〜20:30
開催形式:ハイブリッド型開催(対面・オンライン)
開催場所:立教大学 池袋キャンパス 10号館1階 X107教室
講師:朱位 昌併(あかくら しょうへい/詩人、アイスランド文学研究者、翻訳家)
   蜂飼耳(立教大学文学部文学科文芸・思想専修教授)
   小澤実(立教大学人文研究センター長、文学部史学科世界史学専修教授)
参加費 無料
対面参加:事前申し込み 不要
オンライン参加:事前申し込み 必要

公開講演会「アイスランド現代文学と翻訳」の詳細はこちら

多摩市アイスランド講演会「アイスランド×絵本」〜絵本がつなぐ アイスランドの世界〜

開催日:2023年12月16日(土)14:00〜16:00
開催形式:対面のみ
開催場所:パルテノン多摩2F:オープンスタジオ
     会場内にてアイスランドのお茶や香水の体験コーナー、絵本販売等あり
講師:朱位 昌併(あかくら しょうへい/アイスランド語翻訳者、アイスランド公認ツアーガイド)参加費:無料、事前申し込み12月14日(木曜日)までに電話もしくはwebより申込

多摩市アイスランド講演会の詳細はこちら

アイスランドの「かいぶつ絵本シリーズ」
パネル展示期間:12月1日(金曜日)〜12月21日(木曜日)
場所:パルテノン多摩4階 ライブラリーラウンジ
観覧無料、観覧日時は施設の開館日・開館時間に準ずる

アイスランドの「かいぶつ絵本シリーズ」紙芝居読み聞かせ
子ども連れの親子に向けた読み聞かせ会を実施します。
日時:12月16日(土曜日)11時〜
場所:パルテノン多摩4階 こどもひろばOLIVE

インパクトのあるまっくろなかいぶつたちの姿に子どもは釘付け! 「おおきいかいぶつとちいさいかいぶつ」シリーズ紹介

「おおきいかいぶつとちいさいかいぶつ」シリーズが日本にやってきたのは、2022年7月。日本初刊行となった『おおきいかいぶつは なかないぞ!』は、物知りで賢いけれどちょっぴり小憎らしい「ちいさいかいぶつ」と、彼にパパを笑いものにされた、やさしくて気弱な「おおきいかいぶつ」との、ドキドキハラハラするやりとりがみどころです。

ところが、そんなふたりよりも目を奪われたのが、ダイタンな水着姿の「おおきいかいぶつ」のパパ! 笑いものにされるどころか、自ら大爆笑をさらっていったパパに、一発でやられてしまった人も。

「ちいさいかいぶつは何でもできるのに、ぼくは何にもできない!」と嘆く、おおきいかいぶつ。唯一ちいさいかいぶつにできないこととは?(その姿に娘と爆笑)
途中に出てくる、おおきいかいぶつのパパも、すごいインパクト。爆笑!

アザミさんのレビューより

日本刊行2作目は『まっくらやみのかいぶつ』です。

表紙には、『おおきいかいぶつは なかないぞ!』のときの強気な様子とはうって変わって、不安そうな顔をしたちいさいかいぶつの姿が描かれています。
どうやらちいさいかいぶつは、自分のおうちにいる(かもしれない)ヘビやクモが怖いみたい。そこにやってきたのは、強くて勇敢なおともだち、おおきいかいぶつ。ひとりは心細いけれど、ふたりいれば百人力! 力を合わせておばけを追い出しにかかります。

子どもは「まっくらやみのかいぶつが何か」ということよりも、おおきいかいぶつが虫を食べることに大変驚いてました。「ミミズって美味しいのかな?」と夕ご飯の時まで言ってました。
ちいさいかいぶつとおおきいかいぶつの顔につられてか、子どもたちも口を大きく開けたり、目をまんまるにしていたので、読んでる私も楽しかったです(笑)。
パンとごはんさんのレビューより

自分の気持ちにとっても素直で、泣いたり笑ったり怒ったりと、くるくる変わる表情が魅力的なかいぶつたちは、あっという間に日本でも小さなファンをたくさん作りました。おもしろいことに、北極圏に近いところで生まれた、かいぶつたちですが、日本では、沖縄や九州、山陽、静岡など、比較的暖かい地域での人気が高いそうです。

そんな人気作となった「おおきいかいぶつとちいさいかいぶつ」シリーズの、日本刊行3冊目『かいぶつかぜ』が、2023年11月2日に発売!

  • かいぶつかぜ

    出版社からの内容紹介

    「かいぶつかぜ」の症状は、わがまま、ダダこね、「おやつ食べたい」「もっと遊ぼう〜!」

    かいぶつかぜ(風邪)をひいた「おおきいかいぶつ」のところへ、「ちいさいかいぶつ」がやってきます。お見舞いのお花にも、絵本にも「おおきいかいぶつ」は文句ばっかり! 「ちいさいかいぶつ」は、ついに我慢できなくなって・・・。

    アイスランドのかいぶつ絵本シリーズ、続刊!
    【読んであげるなら2才から】【自分で読むなら小学生から】

    【シリーズ受賞】アイスランド本屋大賞(児童文学部門)、アイスランド文学賞(児童文学部門)、スウェーデン児童文学賞(Bokjuryn 2008 銀賞、Bokjuryn 2010 銅賞)、フランス児童文学賞(Prix des Incorruptibles 2012 銅賞)ほか多数。

うわあ……表紙を見るだけで、おおきいかいぶつがヒドイ風邪をひいて弱っている様子が伝わってきますね。ちいさいかいぶつは、キレイなお花を持ってお見舞いに来てくれたみたいですが、そこはやっぱりかいぶつ! 風邪をひいているのに、かいぶつなのです。

うーん、このおおきいかいぶつの姿、どこかで見たような……? それもそのはず、お熱を出したときの小さな子どもにそっくり! 病気のときは、甘えてわがままを言ってもゆるされて聞き入れてもらえると、子どもはちゃんとわかっています(大人も!)。

そして治ってきてちょっと調子が良くなると、オソロシイかいぶつの本領発揮です!

すっかり疲れた様子のちいさいかいぶつ……。この後ふたりがどうなるのかは、ぜひ自分の目で確かめてみてください。

「おおきいかいぶつとちいさいかいぶつ」シリーズ(アイスランドのかいぶつ絵本)

アウスロイグ・ヨウンスドッティルさんインタビュー

『かいぶつかぜ』の発売に合わせて、シリーズ作品を翻訳している訳者の朱位昌併さんが、3人の原作者のひとりで絵と文をかいているアウスロイグ・ヨウンスドッティルさんのもとを訪ね、お話を聞いてくださいました。朱位さんはアイスランドの首都レイキャヴィークに住んでいて、「おおきいかいぶつとちいさいかいぶつ」シリーズが日本で刊行される前から、この絵本シリーズの翻訳・読み聞かせをしていたそうです。ふたりのかいぶつたちの誕生から、おはなしづくりの秘訣までをお楽しみください。

この人にインタビューしました

アウスロイグ・ヨウンスドッティル

アウスロイグ・ヨウンスドッティル (あうすろいぐようんすどってぃる)

アイスランド西端のボルガルフィヨルズル近郊で生まれる。かいぶつ絵本シリーズで2016年IBBYオナーリスト(画家賞)を受賞したほか、ディンマリン賞(ブックイラストレーション賞2000)受賞、アンデルセン文学賞(画家賞2000)ノミネート、アストリッド・リンドグレーン賞(2015)ノミネート、2004年と2022年にIBBYオナーリストなど受賞多数。『青い惑星のはなし』(邦訳は学研プラスより2007刊)ではIBBYオナーリスト(画家賞2002)、および、文作者のアンドリ・スナイル・マグナソンと共に西北欧理事会児童文学賞(2002)とUKLA賞(2014)を受賞。

この書籍を作った人

朱位 昌併

朱位 昌併 (あかくらしょうへい)

アイスランドの首都レイキャヴィーク在住。アイスランド大学大学院でアイスランド文学を研究するほか、翻訳やアイスランド語- 日本語辞書の編纂に携わる。アイスランドと日本の双方にルーツをもつ子どもたちのために、「おおきいかいぶつとちいさいかいぶつ」絵本シリーズの翻訳・読み聞かせをしていた。訳書として絵本『さむがりやのスティーナ』(平凡社2021)、『ボウヌス詩篇(仮題)』(ヴィグディス・フィンボガドッティル外国語研究所2023刊行予定)ほか、翻訳監修・翻訳協力等多数。

この書籍を作った人

カッレ・ギュットレル

カッレ・ギュットレル (かっれぎゅっとれる)

ストックホルム生まれ。現在は、スウェーデン中部・ウップランド地方のハーベレーに暮らす。児童書・YA文学作品を多数出版。教科書や教材制作も多く手がけた。2010 年スウェーデン児童文学アカデミーのファイアースピリット賞を受賞。長年にわたりスウェーデン作家協会・図書館委員会メンバーを務めてきたほか、ビスコプス・アーヌー全寮制成年教育学校(フォルケ・ホイスコーレ)学長と協力し、かいぶつ絵本シリーズの原作者3人が出会った、ビスコプス・アーヌー島での北欧児童文学ワークショップの主催メンバーを務めてきた。

この書籍を作った人

ラーケル・ヘルムスダル

ラーケル・ヘルムスダル (らーけるへるむすだる)

フェロー諸島(デンマーク領)の首都トースハウンで暮らす。あらゆる年代向けの小説・短編・戯曲・詩を執筆するほか、人形劇シアターを創設・主催。自身の作品を上演するほか、パペット制作や舞台デザインも手がける。また、執筆作品にも、写真・彫刻・イラストレーション・アートプリントなどで挿絵を手がける。新刊Toran gongur(『雷の音』)では、アート・フィギュア創作を手がけて写真に撮影し、それをもとにしたアートプリントを制作した。フェロー作家連盟の会長を務めるほか、100年の歴史をもつ文化誌Varðinの編集にも携わる。トースハウン市議会子ども文化賞(1996, 2013, 2020年)、西北欧児童青少年文学賞(2016年)を受賞したほか、アストリッド・リンドグレーン記念文学賞に4度ノミネートなどほか多数。

森や湖のそばに住むかいぶつの存在

───「おおきいかいぶつとちいさいかいぶつ」シリーズは、アウスロイグさん、カッレさん、ラーケルさんの3人が、ワークショップで出会って誕生した絵と物語だそうですね。ユニークなふたりのかいぶつは、どんな発想から生まれましたか?

アウスロイグ:私たち3人が出会ったのは、2001年にスウェーデンのメーラレン湖に浮かぶ島のひとつ、ビスコプス・アーヌー島で開かれた、北欧の作家とイラストレーターが参加するワークショップでした。そのときに作ったものが、かいぶつ絵本シリーズの原形となりました。

アウスロイグ:おおきいかいぶつは、とても自分勝手で、いばりんぼう。ちいさいかいぶつは何も言い返せないから、一緒に遊びたくないと悩みますが、ついに勇気をふりしぼるというおはなしです。

実はワークショップの場に、そんなおおきいかいぶつと同じ振る舞いをした人がいて、その人を見て、物語を思いついたのです。このときはシリーズにする考えはありませんでしたし、絵も課題のために数時間で描き上げたものでした。

その後、改めて第1作『ちいさいかいぶつは"いやだ"と言った』を制作しました。後続の本に比べると、すこし粗くて簡素ですが、初対面の私たちがワークショップで一緒に作り上げたおはなしが基になっています。

「おおきいかいぶつとちいさいかいぶつ」シリーズを作った3人の作者とかいぶつたち。これは写真にかいぶつたちの絵を貼り付けて作ったものですが、実在しているような存在感があります

───原題は「skrímsli(アイスランド語で「怪物」や「化け物」を指す)」シリーズで、すでに10巻の絵本が刊行されていますが、作品世界のベースになるskrímsliのおはなしなどあったのでしょうか?

アウスロイグ:どんな国にも、怪物や化け物の物語がありますよね。ですから、人間のような動物のようなおかしな「かいぶつ」について考えることは、決して難しいことではありませんでした。それに、かいぶつの外見についてルールは一切ありませんから、かいぶつを生み出すのは、とても楽しいことです。

かいぶつ絵本シリーズのかいぶつたちが住む世界のベースには、私たち3人のそれぞれの故郷、アイスランド(アウスロイグさん)、フェロー諸島(ラーケルさん)、スウェーデン(カッレさん)があるので、彼らの物語には、ときどきそれらの国々にあるような山や森や湖が出てきます。かいぶつたちの家は、フェロー諸島の家々を想起させるかもしれませんね。そのほかにも、私たちが子どもだった頃に抱いて、今でも心に残って覚えている感情から、インスピレーションを得ることもあります。

───日本語版のあとがきに掲載されている写真の、かいぶつたちの大きさは実物大ですか?

アウスロイグ:おもしろい質問ですね! かいぶつたちが実際にいると考えなければ出てこない質問です。この写真にかいぶつたちを描き入れたとき、これくらいが適した大きさだと私は思いました。でも、もちろん読者ひとりひとりが自分の気に入るようにかいぶつの大きさを考えられます。

あとがきに掲載されているものとは別の写真ですが、かいぶつの大きさのイメージが伝わってきます

───日本の子どもたちには、大口をあけて笑ったり、泣いたり、怒ったりする表情豊かなかいぶつが人気です。かいぶつたちの絵を描く時に、こだわっていることはなんですか?

アウスロイグ:表情でも身振り手振りでも、かいぶつたちの感情を描くようにしています。手(爪?)を使った何でもないような身体表現でさえ、非常に多くのことを語りますから、ひとつの表情で複数の感情を───たとえば、恐怖と驚き、怒りと悲しみ、恥ずかしさと同情などを───表せるように力を尽くすこともあります。口周りや眉毛にも気を配りますし、ときには片方の目でひとつの感情を表して、もう片方の目でまた別の感情を描くこともあります。かいぶつたちの感情は私たち人間と同じく複雑で、単純に表せることは滅多にありません。

───絵本は、どんな画材を使って描いていますか?

アウスロイグ:描き方についての質問ですね。まず、本全体に使用する小さな絵をスケッチします。次に、スケッチ用紙に大きな図形を描きます。それから黒い紙を切り抜き、クレヨンで色を塗り、目には白いアクリルカラーを塗ります。色々な紙を使ってコラージュすることもあります。複雑なものを貼り付けるのは少し難しいときもありますが、私はコラージュが好きで、よく使っています。それには、良いハサミとナイフが必要ですね。

言葉ひとつにもこだわり、3人で話し合いながら絵本を作る苦労と喜び

───日本語に翻訳された『おおきいかいぶつは なかないぞ!』、『まっくらやみのかいぶつ』、『かいぶつかぜ』の3冊について、制作時に苦労したことはなんですか?

アウスロイグ:実はその3冊は、どれも「第2作」として作られたものです。まだ日本では第1作が出版されていませんが、第1作の制作後、全員でひとつずつ物語の案を出し合って一緒に作り上げていったのが『おおきいかいぶつは なかないぞ!』、『まっくらやみのかいぶつ』、『かいぶつかぜ』の3冊でした。共同作業では、学ぶことが多くありました。絵が十分に語っているのであれば躊躇なく文章を削りましたし、物語を練っているうちに書き直しが必要になれば、ことばを足すこともありました。たったひとつの単語についてであれ、必要に応じて、話し合わなければいけません。

───3人は別々の国に住んでいますよね。どうやって絵本の制作を進めているのですか?

アウスロイグ: 3人で物語を作るためには、アイスランド語(アウスロイグさんの母語)、フェロー語(ラーケルさんの母語)、スウェーデン語(カッレさんの母語)、デンマーク語(※1)のテキストを用意して、それらを比べながら話し合っています。物語が同じであっても、どの言語で書かれるかによって、どうしても印象が異なるものになってしまうことがあるからです。

アイスランド語版についていえば、かいぶつたちは中性名詞で表されて固有名がついておらず、単に「おおきいかいぶつ」や「ちいさいかいぶつ」と呼ばれていますが、英語版では「Little Monster」や「Big Monster」(※2)と個々の名前のような表記になっています。

かいぶつたちの表記については、第1作が出版されるときによくよく話し合わないといけませんでした。スウェーデン語とフェロー語では、それぞれのかいぶつの大きさを分かりやすく表現するために、「おおきいかいぶつ」は頭文字を大文字で書いて「Stora Monster」として、「ちいさいかいぶつ」は頭文字を小文字で「lille monster」と書かれています。

(※1)それぞれの作者が母国語でのテクストに責任をもちつつも、各言語間のズレをなるべくなくすための橋渡しとして、アウスロイグさんとラーケルさんが一緒にデンマーク語にも翻訳しているのだそうです。
(※2)ここでは説明をわかりやすくするために英語の「Monster/monster」の語を用いています

───「かいぶつ」というひとつの単語に対しても、言語によって異なるニュアンスが伝わるようにこだわっているんですね。では、作品をつくっていて楽しかったことはなんでしょうか?

アウスロイグ:どの作品でも、かいぶつたちの様子や感情をとても楽しんで描いています。『かいぶつかぜ』でのおおきいかいぶつは、信じられないくらい自分勝手で機嫌もよくありません。『まっくらやみのかいぶつ』では、どちらのかいぶつも、ちょっとおばかさんですが自分たちのしたことに満足げです。『おおきいかいぶつはなかないぞ!』では、ほかの物語と比べると、かいぶつたちの立ち位置が反対になっています。

『おおきいかいぶつは なかないぞ!』(左)では強気のちいさいかいぶつ。でも『まっくらやみのかいぶつ』(右)では、おばけが怖くてビクビクしています

アウスロイグ:この作品では、おおきいかいぶつにも弱い一面があったり、また、ちいさいかいぶつだってうぬぼれることもあるし、いつも他の人のことをきちんと考えているわけではないということを見せたいと思っていました。また、脇役である「おおきいかいぶつのパパ」に作中でどんな役割を与えるべきかが悩ましい問題でしたが、結局あまり大きな役割を与えないことに決まりました。

一番重要なことは、これはふたりのかいぶつの物語であって、自分たちのことは親をはじめとする大人の指図なしに自分たちで問題を解決していくことだからです。第1作には「ちいさいかいぶつのママ」が登場しますが、おおきいかいぶつとちいさいかいぶつのあいだに割って入るようなことはしません。「おおきいかいぶつとちいさいかいぶつ」シリーズは、どれも大人が叱ったり助言をするのでなく、子どもたちが自分ですべきことを見つけていく物語なのです。

───だから子どもたちは、感情のままに泣いたり笑ったり怒ったりするかいぶつたちが好きになるのかもしれませんね。3冊の中で、特にお気に入りのシーンはどこですか?

アウスロイグ:『おおきいかいぶつはなかないぞ!』では、みんなが海で泳いでいるシーンがお気に入りです。彼らが喜んで満ち足りた様子が描かれていて、このページは全体のバランスよく描けたと思っています。

アウスロイグ:『まっくらやみのかいぶつ』では、ちいさいかいぶつが窓からどろぼうが入って来るのを想像するシーンがお気に入りです。ここは、ちいさいかいぶつの表情を思うように描けたところで、なかなかよく出来ました。

アウスロイグ:『かいぶつかぜ』では、ちいさいかいぶつが我慢の限界を迎えるところがお気に入りです。抑えきれなかった感情が、文字なしに見開きいっぱいに描かれているところです。取り組んでいてとても楽しいページでした。

───かいぶつたちのやりとりは、大人にはほほえましく、子どもにはお友達のように感じます。おはなしづくりでこだわっていることはなんですか?

アウスロイグ:あらゆる感情を表現すること、誰かが叱ったり褒めたりしなくても、複雑な感情に対処できることを示すことが大切です。人間もかいぶつも、みんな弱い生き物なんですから!

私たちは少なく見積もっても、一人で作業する3倍の時間を費やしてかいぶつシリーズをつくっています。意見の食い違いがあれば、しっかり話し合うことが重要です。そのためか、校正で修正を要求されることはほとんどありません。

 

こちらが、絵本制作のミーティングの様子。かいぶつたちも参加して、なんだか楽しそうですね!
日本ではまだ登場していないかいぶつもいます

アウスロイグ:先に触れましたが、かいぶつたちの物語を作るとき、まず私たちはアイデアをそれぞれの母国語とデンマーク語で書き、4か国語のスクリプトが完成した後、テキストをやり取りします。その後、本全体の小さなスケッチに取り掛かります。

もちろん制作の過程で、文章に手を加える必要が出てきます。新しい文が入ってくることもあれば、不要になった言葉を省くことも。直接会って全員で作業ができたら文句ないのですが、多くの場合、ZoomやSkypeでの話し合いで何とかしています。それから、お互いにとても長いメールも書きます! 自分の考えを妥協なく説明するためです。実はそれぞれの本でリーダーというか筆頭作者を決めて作業しているのですが、どの物語も、全員一緒に協力して作り上げているのは変わりません。

───日本の子どもたちに、どんな風に絵本を楽しんで欲しいですか?

アウスロイグ:かいぶつたちは、お互いを理解するためにちょっとしたきっかけや手助けが必要なこともあります。でも、彼らの物語に触れる子どもたちは、絵や文章から実に多くのことを読み取ります。子どもたちは、それを私たち大人に伝えることもできますから、子どもたちに特別言いたいことはありません。

あえて言うとすれば、紙の絵本であるかいぶつ絵本シリーズを───紙の絵本と向き合う時間を───存分に味わってほしい、と伝えたいです。そして大人には、できるかぎり子どもたちに耳を傾けて欲しい、と。

───ありがとうございました。

2024年1月にアイスランド北部の都市アークレイリにて上演される劇「おおきいかいぶつとちいさいかいぶつ」のポスター(Akureyri Theatre Company提供)。同劇は、2011-2012年にはレイキャヴィークの国立劇場で上演された

朱位さんが語る、アイスランドの絵本事情

───ここからは、絵本ナビから朱位さんへの質問です。朱位さんは、ゆぎ書房が翻訳をご依頼する前から、「かいぶつ絵本」シリーズ(日本では「おおきいかいぶつとちいさいかいぶつ」シリーズ)を翻訳し、読み聞かせをしていたそうですが、本シリーズの絵本とはどこで出会いましたか?

朱位:アイスランドでは、アイスランド語以外の言語を(も)母国語にもつ子どもや親を支援する母国語協会というものがあるのですが、私はそこに所属する日本語教室に参加していました。

その母国語協会で「アイスランド語の絵本を各国語に翻訳して子どもたちに読んでもらう」という催しが行われており、そこで指定図書になったのが、かいぶつ絵本シリーズの第1作だったんです。それ以前にも図書館で見かけたことはあったのですが、子どもたちのために翻訳して───その過程で自分でも繰り返し読んで───というのは初めての経験でした。

───「かいぶつ絵本」シリーズに惹かれたポイントはなんでしたか?

朱位:アイスランド語の絵本は、あまり幼児語を使いません。実はかいぶつたちの絵本もそのひとつで、むしろ大人でもあまり聞いたことのないような言葉がひっそり置かれていることもあります。子どもに寄り添ってはいても、読者を子ども扱いしない点は、このシリーズのとても好きなところです。アウスロイグさんに言葉づかいについて聞いたところ、子どもたちは普段使わないような言葉であっても、たとえば耳に面白かったら難なく受け入れられるのだから、大人が考える「子どもの言葉」を気にして言葉自体のおもしろさを犠牲にしたくない、と言っていて、とても共感しました。

───アイスランドでの絵本事情を、簡単に教えてください。

朱位:アイスランドの絵本事情は、決して悪くはありません。アウスロイグさんが仕事を始めた約30年前と比べても、現在は多種多様なものがあり、本の質も向上しているようです。値段が安くて内容が薄すぎるように感じる本もあれば、重厚な絵本もあります。また、あまり日本では見ない画風かもしれませんが、アイスランド国内には優れたイラストレーターがたくさんいます。

しかしながら、アイスランドにおける絵本を含めた児童書と読書の状況は、他の多くの国と同様、厳しくなってきている面もあります。アイスランドの子どもも、コンピューターやスマートフォンをよく使います。ウェブ上にある手軽なエンターテインメント・コンテンツは、絵本よりも簡単に目に触れるものでしょう。際限なくページをスクロールし、何か新しいものを常に探していて、年齢関係なく刺激的で夢中になれるものを簡単に見つけられます。

この話題をアウスロイグさんと話していたときに彼女は、本を楽しむにはある程度のプライバシーと静けさが必要だ、と強調していました。かいぶつ絵本シリーズは、何より母国にたくさんの読者がいて、時間とともに新しい読者もやって来ます。彼女たちはベストセラーを目標にしていません。数字を気にかけて処理するのは出版社の役割である、と言っていました。彼女たちは、かいぶつたちと一緒にかいぶつたちの世界を――何だって起こりうる世界を――旅することを楽しみ、誇りに思っています。アウスロイグさんが行う子どもたちと行うワークショップでは、参加者のために彼女がかいぶつを描くことはほとんどなく、子どもたちが自分自身のかいぶつを作り出すことを手伝うことが多いようです。

───子どもたちが絵本と出会う、図書館や書店の様子はいかがですか?

朱位:アイスランドにある図書館は、小さいながらも子ども用コーナーが充実していることが多いです。とくに絵本は小さい子どもでも本を手に取れるように設計されるだけでなく、親と一緒に座って本を広げられるスペースもあります。

書店でも、絵本が陳列している子ども用コーナーは、大人が読む本が置いてある精悍な棚づくりとは異なり、子どもが物語の世界に入り込んでいけるように棚の色や展示物を工夫しているところもあります。大人が本を買い与えるよりも、子どもが自ら本屋に分け入って気になった一冊を選び取れるような工夫をしている書店は、私が足を踏み入れてもいつもワクワクします。

───ありがとうございました。

取材協力・インタビュアー・インタビュー翻訳:朱位昌併
構成・リライト:中村美奈子(絵本ナビ)
写真提供:アウスロイグ・ヨウンスドッティル、カッレ・ギュットレル、ラーケル・ヘルムスダル

「おおきいかいぶつとちいさいかいぶつ」シリーズ(アイスランドのかいぶつ絵本シリーズ)

2024年2月に日本で『まっくらやみのかいぶつ』がスクリーンに登場!

2023年6月に多摩市で開催された「アイスランドウィーク」でのパネル展示

東京五輪2020でアイスランド選手団のホストシティとなった東京都多摩市は、駐日アイスランド大使館との間で「友好協力関係に関する覚書」を締結しました。それから毎年6月にアイスランドの文化に触れるイベント「アイスランドウィーク」が行われています。

2023年6月には、「アイスランドの『かいぶつ絵本シリーズ』パネル展示&読み聞かせ会」も開催されました。同イベントでの読み聞かせや、市内幼稚園での読み聞かせのために、絵本紙芝居も制作されました。

2023年6月に多摩市で開催された「アイスランドウィークのために制作された絵本紙芝居

そして2023年12月には、一時帰国される翻訳者の朱位昌併さんの講演とゆぎ書房とのトークショーの開催が予定されているそうです。

さらに2024年2月に開催される「ラスカル子ども映画祭」(多摩市×日本アニメーション(株)) では、『まっくらやみのかいぶつ』がスクリーンに登場! 興味がある方は続報をお待ちください。

多摩市公式HP「アイスランドウィーク」

「ラスカル子ども映画祭」イベント情報

イベント情報

丸善・多摩センター店にて「アイスランドのかいぶつ絵本シリーズ パネル展」
開催予定日:10月27日〜12月20日頃まで

「駐日アイスランド大使館主催 語学セミナー」
開催日:1116日水曜日 オンライン開催
かいぶつ絵本シリーズの訳者・朱位昌併さんも講師のひとりとしてお話しされます。詳細は下のリンク先の「駐日アイスランド大使館主催 語学セミナー」HPでご確認ください。

駐日アイスランド大使館主催 語学セミナー

このほか12月にも、訳者・朱位さんが登壇するアイスランド文学・アイスランド絵本のイベントがいくつも開催されます。詳細は続報をお待ち下さい。

「おおきいかいぶつとちいさいかいぶつ」シリーズ
(アイスランドのかいぶつ絵本シリーズ)受賞歴

北欧各国で、たくさんの賞に輝いている「おおきいかいぶつとちいさいかいぶつ」シリーズ。その受賞歴を紹介します。

2004年ディンマリン賞(画家賞)受賞:『ちいさいかいぶつの”いやだね”』未邦訳)
2004年アイスランド本屋大賞(児童書部門)受賞:『ちいさいかいぶつの”いやだね”』(未邦訳)
2007年レイキャヴィーク児童文学賞受賞:『おおきいかいぶつはなかないぞ!』 
2007年スウェーデン児童文学賞(Bokjuryn 2007 第5位):『まっくらやみのかいぶつ』
2008年スウェーデン児童文学賞(Bokjuryn 2008 銀賞):『かいぶつかぜ』
2010年スウェーデン児童文学賞(Bokjuryn 2010 銅賞):『てっぺんのかいぶつ』(未邦訳)
2011年アイスランド女性文学賞(Fjöruverðlaunin)ノミネート:『てっぺんのかいぶつ』(未邦訳)
2012年フランス児童文学賞(Prix des Incorruptibles 2012 銅賞):『おおきいかいぶつはなかないぞ!』
2012年アイスランド本屋大賞・児童書部門3位:『かいぶつ、けんかする』(未邦訳)
2013年 トースハウン市議会子ども文化賞 :「おおきいかいぶつとちいさいかいぶつ」シリーズと、同シリーズの劇の上演、および、ラーケル・ヘルムスダルの他作品に対し授与された
2013年西北欧理事会・青少年児童文学賞ノミネート:『かいぶつ、けんかする』(未邦訳)
2013年スウェーデン児童文学賞(Bokjuryn 2013 第4位):『かいぶつ、けんかする』(未邦訳)
2014年西北欧図書館週間選出:『かいぶつ、けんかする』(未邦訳)
2014年アイスランド本屋大賞・児童書部門3-4位:『かいぶつねこ』(未邦訳)
2016年IBBY オナーリスト(画家賞):『かいぶつねこ』(未邦訳)
2017年アイスランド文学賞(児童・YA文学)ノミネート:『こまった かいぶつ』(未邦訳)
2018年西北欧理事会・青少年児童文学賞ノミネート:『こまった かいぶつ』(未邦訳)
2022年レイキャヴィーク児童書賞(イラストレーション部門)ノミネート:『かいぶつげき』(未邦訳)

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