どうぶつのわかっていること・わかっていないこと(小学館集英社プロダクション)
「答えのない問いに向き合う力」をはぐくむ新感覚の絵本
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絵本紹介
2023.12.22
外の寒さが厳しくて、室内で過ごす時間の長い冬休み。ゲームや動画も良いけれど、せっかくなら新しい物語に出会ってほしいと思うのが親御さんの心理ではないでしょうか。でも、いきなり長い物語や文字ばかりの児童文学を手渡しても、読んでもらえずそっと本棚に戻されるのも事実。それなら、美しい挿絵がふんだんに描かれた「絵童話」はいかがでしょう?
「絵童話」とは、
・絵本よりも文章が長く、読み物よりも絵がたっぷり入っている作品。
・お話の内容が、子どもが楽しめるものでありながら、大人が読むとさらに味わい深く感じられるもの。
・本のサイズがA5ぐらいで読み物の体裁をしているもの。
今回、寒い冬に心をポッと温めてくれるような、あたたかい飲み物と一緒に味わいたくなる珠玉の絵童話2作品をご紹介します。
みどころ
カカオの町に暮らす、板チョコレートのクーちゃんと、仲良しのぎんがみちゃん。二人は、どんな一年を過ごしているのでしょう。
春、南からの風に誘われて、家の外に出かけた二人が考えたことは?……「1 春のいちばんはじめの日」
夏の朝、海に出かけたふたりの荷物は大きさがまるで違っていて……「4 なくてもいいもの」
秋も本番、よく晴れた午後、二人はたき火を囲んで……「6 ふたりの音楽」
冬、風邪をひいてしまったぎんがみちゃんとどうしてもおしゃべりがしたくて……「8 マフラーと糸でんわ」
クーちゃんとぎんがみちゃんが一緒に過ごす春夏秋冬。それぞれの季節の空気がたっぷり詰まった8つのお話が入っています。
お話の中で素敵だと感じたのは、仲良しだからといって、好きなものが同じだったり、性格が似ているわけではないところ。読めば読むほど、面白いほどに二人の違いが見えてきて、読む私たちもクーちゃんやぎんがみちゃんと一緒にびっくりしたり、笑っちゃったり。
たとえば、おしゃれが好きなクーちゃんが、ぎんがみちゃんがもっとおしゃれをしてもいいんじゃないかと考えて、つやつやした水色のリボンを大切に包んで渡すお話。喜んで受け取ったぎんがみちゃんは迷わずあるところに結んでしまって。さて、どこに結んだと思いますか?
作者は、児童文学作家の北川佳奈さん。お話の中には、チョコウエハースの女の子、ミルフィーユショコラさん、クリの木通り、モンブラン商店街など甘ーい香りがしてきそうな名前がいっぱい出てくるところも魅力です。他にどんな名前が出てくるかぜひ探してみてくださいね。『ぼくに色をくれた真っ黒な絵描き シャ・キ・ペシュ理容店のジョアン』(Gakken)で第28回小川未明文学賞大賞を受賞し、児童文学作家デビューされたという北川さん。北川さんの物語世界をもっと読んでみたくなりました。
また、とびきりキュートなクーちゃんとぎんがみちゃんを描かれたのは、イラストレーターのくらはしれいさん。二人の可愛らしい洋服や髪型をはじめ、それぞれの持ち物やお部屋のページなどじっくり眺めたい場面がいっぱい。表紙も見返しも中の挿絵もまるごと一冊、可愛らしさにあふれています。
友だちの思いもよらぬ反応に驚いたり、違うからこそ尊敬したり、気づけばその子のことを考えている……そんな友だちへの思いや、一緒に過ごす楽しさが詰まった温かな一冊。小学生から大人の方まで。自分用にはもちろん、大切なお友だちへの贈り物にもおすすめです。
(絵本ナビ編集部 秋山朋恵)
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この書籍を作った人
作家、イラストレーター。第28回小川未明文学賞大賞受賞作『ぼくに色をくれた真っ黒な絵描き−シャ・キ・ペシュ理容店のジョアン』(しまざきジョゼ・絵/Gakken)でデビュー。作絵の作品に『ポラン先生ときけんなマジックショー』(小学館)、文章の作品に『クーちゃんとぎんがみちゃん ふたりの春夏秋冬』(くらはしれい・絵/岩崎書店)、イラストの作品に『かがり火』(青柳拓次・文/mille books)、『6カ国語のわくわく絵ずかん 学校のことば アジア編』『同 南北アメリカ・ヨーロッパ編』(齋藤ひろみ・監修、くまあやこ・絵、板谷ひさ子・文/ほるぷ出版)がある。
この書籍を作った人
岐阜県在住。雑誌、一般書籍の装丁画・挿絵やオリジナル雑貨のイラストなどを手掛ける。絵本に『レミーさんのひきだし』(作・斉藤 倫、作・うきまる/小学館)、『王さまのお菓子』(作・石井睦美/世界文化社)がある。
みどころ
チョコレートの箱をそっと開けるようにページをめくりたいとびきりのお話。
作者は、物語を紡ぎ出す名手、児童文学作家の岡田淳さん。
小学五年生のわたしとお母さんの妹・みこおばさんとの神戸デートの1日。
港の公園のベンチに座って、途中で買ったチョコレートを開けるほんのひとときの時間。
箱のなかにチョコレートは六つ。赤や青や緑色の紙で包まれたちょっと贅沢そうなチョコレート。
わたしとおばさんで三つずつ。まずは私が緑色、おばさんが青。
そっと紙をはがして、ふたりいっしょに口にいれる。
舌の上で、かたまりがゆっくりととけていく。
「時間がとけていくみたい」
そう言って、みこおばさんは、ふいにこんな話をしてくれたのでした。
「坂道の上の洋館に、ひとりの男とニワトリがくらしていました。」
風船売りの男と、その相棒のニワトリ。
ニワトリは、その日の風の様子を風船売りに伝える役目をし、そのおかげで風船はよく売れていました。風船がたくさん売れると、男はおみやげにチョコレートを買って帰りました。男もニワトリも、チョコレートが大好きだったからです。チョコレートを食べながらふたりでいろんな話をして、ふたりはとっても幸せでした。しかし、ニワトリのあるたったひとつのうそにより、ふたりに、思いがけないことが起こっていきます。
チョコレートを一つずつ食べながら、ゆっくりすすんでいく物語の時間。
物語は甘くて優しく、けれどもほろ苦さを残して結末を迎えます‥‥‥。
「なんとかならへんやろか」
納得がいかないわたしは、お話の続きを加えます。
港の公園、異人館、神戸の美しい風景と、チョコレートの濃厚な甘さが頭をかすめながら、わたしとみこおばさんの物語、風船売りの男とニワトリの物語という二つの物語が、ゆっくりと心に沁みわたっていきます。物語を紡ぐ楽しさと共に、その楽しさを共有できるわたしとみこおばさんの関係性の素敵さが伝わってきます。
特筆したいのは、造本の美しさ。素敵な表紙のデザイン、カバーを開くと現れるチョコレート色の中表紙や見開きページ、1枚1枚めくりごたえのある分厚い紙、まるで1枚の絵画のようで、絵も物語を語っているような植田真さんの挿絵。すみからすみまでまるごとを味わいつくしたくなるような贅沢な1冊です。
対象年齢は、小学校高学年ぐらいから大人の方まで。小学生や中学生にもぜひこの造本の美しさを感じてもらえたらと思います。
もともとは、愛蔵版 県別ふるさと童話館「兵庫の童話」(1999年リブリオ出版)に収録された作品が、今回単行本化されたというこちらのお話。力のあるお話というのは、こんな風に形を変えながら読み継がれていくものなのですね。これから、より多くの子どもたちや大人の方に広まっていきますように。
(絵本ナビ編集部 秋山朋恵)
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この書籍を作った人
1947年兵庫県に生まれる。神戸大学教育学部美術科を卒業後、38年間小学校の図工教師をつとめる。1979年『ムンジャクンジュは毛虫じゃない』で作家デビュー。その後、『放課後の時間割』(1981年日本児童文学者協会新人賞)『雨やどりはすべり台の下で』(1984年産経児童出版文化賞)『学校ウサギをつかまえろ』(1987年日本児童文学者協会賞)『扉のむこうの物語』(1988年赤い鳥文学賞)『星モグラサンジの伝説』(1991年産経児童出版文化賞推薦)『こそあどの森の物語』(1〜3の3作品で1995年野間児童文芸賞、1998年国際アンデルセン賞オナーリスト選定)『願いのかなうまがり角』(2013年産経児童出版文化賞フジテレビ賞)など数多くの受賞作を生みだしている。他に『ようこそ、おまけの時間に』『二分間の冒険』『びりっかすの神さま』『選ばなかった冒険』『竜退治の騎士になる方法』『カメレオンのレオン』『魔女のシュークリーム』、絵本『ネコとクラリネットふき』『ヤマダさんの庭』、マンガ集『プロフェッサーPの研究室』『人類やりなおし装置』、エッセイ集『図工準備室の窓から』などがある。
この書籍を作った人
Makoto Ueda 1973年静岡生まれ。画家。『イラストレーション』誌「ザ・チョイス」1998年度・大賞受賞。『マーガレットとクリスマスのおくりもの』(あかね書房)で日本絵本賞を受賞。絵本、装画、挿絵、CDジャケット、広告の仕事など、幅広く活躍している。自作の絵本に『スケッチブック』(ゴブリン書房)』、『まじょのデイジー』(のら書店)、『おやすみのあお』(佼成出版社)、『ぼくはかわです』(WAVE出版)、挿絵に『雨ふりマウス』(竹下文子・文 アリス館)『絵描きの植田さん』(いしいしんじ・作 ポプラ社)『わたしのおじさん』(湯本香樹実・著 偕成社)『りゅうの目のなみだ』(浜田廣介・作 集英社)『トトンぎつね』(今江祥智・文 フェリシモ出版)、『えのないえほん』(作・斉藤倫 講談社)など。装画に『号泣する準備はできていた』(江國香織・著 新潮社)などがある。
いかがでしたか? これほど上質で心が満たされる物語を子どもだけの楽しみにしてしまうのはもったいない。今、絵童話は大人も十分楽しめるジャンルなのです。
この記事でほかの作品も気になった方は是非「大人も楽しみたい絵童話の世界」から、めくるめく絵童話との出会いをお楽しみください。