─── 長編ファンタジーシリーズが完結してから3年半、新・長編シリーズとして「ダヤンの冒険物語」がいよいよスタートします!
第1作目『ダヤン、クラヤミの国へ』は、ダヤンの親友ジタンとその妹のバニラが大活躍、初めてダヤン作品を読まれる方でも楽しめる内容ですね。前シリーズの完結後、また新たにシリーズを・・・と思われたのはどうしてですか?また、みどころを教えてください。
ほんとはね、これ外伝のつもりで書き始めたの。ジタンのことを書きたくて。長編の最後でタシルに帰ってきたジタンが、ヨールカの扉で初めてわちふぃーるどにやってきたダヤンを迎えたジタンじゃないのが、気になって。
でも「この内容だと初めての方も楽しめるから、新シリーズにしませんか」といわれて、もう伝説は終わっちゃったけど、一冊で楽しめる冒険物語をやってみたくなりました。
読者の方には小学生も結構多くて、私がそのころ冒険物語を読んでわくわくしたように、子供にも読んでもらいたいなと思って。
わちふぃーるどには、まだ絵本や物語にも出てこないような面白い場所がたくさんあって、物語でなら、そういうところの話を作っていけるもんね。
─── 絵本や物語の中でも様々な表情を見せてくれるダヤン。そのキャラクターに惹かれてファンになった読者も多いかと思うのですが、ダヤンにはモデルがいるのでしょうか?
ちょうどダヤンが生まれたとき、うちにはダヤンという猫がいました。っていうか、ダヤンがいたからダヤンという名前にしたんだけどね。
身近に猫がいるということは絵を描く上でも、お話を作る上でも、どんなに助かったか分かりません。
フォルムや表情、しぐさ、猫の特性をできるだけ表現したいと思っていました。
今ではどんな格好をした猫でも描けますよ。
─── 絵本や物語で大きなキーワードとして登場する"誕生日"。池田さんにとって、特別な誕生日の思い出はありますか?
子供のころは誕生日になると、母が必ずオムレツを作ってくれました。あとは夫にすごいバラの花束をもらったのが、うれしかったなー。
─── 池田さんは旅がお好きだそうですね。「わちふぃーるど」を描く時、インスピレーションを受けた国や風景などはありますか?
いっぱいあって書ききれないほどよ。まず一番初めにイギリスを旅したとき、列車の窓から緑の丘の中腹に赤い屋根の家々が建つ街を見たとき。これはタシルの街の原型になりました。
それからドイツのローデンブルグやバードヴィンプフェンなど中世の街の風景。古い壁の途中に唐突に階段がついていたり。誰も通れないような小さな扉があったり。なんだか動物の国みたいで、楽しかった。
自然や空気でいえば、蓼科でしょうね。
わちふぃーるどを作り始めてしばらくは、もうひとつ自分でも作り話のようだったのだけれど、
ある日蓼科の私の家から歩いて八子ヶ峰に登ったとき、サーッと吹き抜ける風を感じたときに、「ああ、わちふぃーるどはここなんだ」と思いました。
それからはすっかり気が楽になった。だって、木の裏にびっしりきのこが生えている様子や、小さな川がサラサラ流れてそこに丸木の橋がかかっている様子とか、すぐに描けるわけですから。
今でも、いろんな国やいろんな場所でわちふぃーるどを探していますよ。
─── 20年以上も「わちふぃーるど」の世界を描き続けられている池田さん。新作でも更に物語は広がっていき、アイデアが尽きることがないように見えるのですが、池田さんにとって「わちふぃーるど」「ダヤン」はどんな存在?
自分が造っていきたい世界を具現化できるようにしてくれた、とてもありがたい大切な存在です。
「ダヤン」と「わちふぃーるど」のおかげで、はっきり目標が見えてきたし、これからも生涯造り続けていける。私は造りたいたちなので、造っていくことが息をするのと同じくらい必要なのです。
もうずいぶん長いことやっているけど、いまだに飽きてはこないしね。案外奥深い世界なんですよ。
─── 好きな絵本作品、作家さんなどはいらっしゃいますか?
一番はセンダックかな。絵の力だけでなく、センス、摩訶不思議なところ。いったんもういいか、と思ったけど、やっぱり私の一番。心の師匠ね。
オールズバーグもすばらしい。パステルの使い方ではずいぶん彼に習いました。
イノチェンティの『ピノキオ』もいいねー。暗い風景、無表情な人物もいい。
『イルフ童画館』で展覧会をやったとき、武井武雄にもすっかり感動しました。刊本作ってみたくなった。
今の日本の作家さんでは酒井駒子さんがいい。
子供のころの私は絵本というより、『グリム童話』や『ロビンフッド』などの挿絵に惹かれていたけれど、『リンカーン』はすばらしい絵本だった。作者は誰だったかな。木炭でざっくり描いたような絵だけど色もきれいだった。
─── 最後に、絵本ナビ読者に向けて一言メッセージをお願いします!
「わちふぃーるど」はどこか遠くにあるような、案外近くにあるような不思議な世界です。
本を開けば、時空を超えてそんな世界にひとっ飛び。さあ、本を開いて、どうぞ覗いてみてください。
─── ありがとうございました。