きむらゆういちさんのインタビューから数日後、田島征三さんのお話を伺いに伊豆高原へ。
取材に伺った5月は、ちょうど「伊豆高原アートフェスティバル」の開催中。田島さんの息子さんがシェフを勤める「ビストロくさむら」には、田島ファミリーの作品がそこここに!
思いがけずアートを堪能してからインタビュースタートです。
●1冊ごとに新しい描き方をチャレンジしたくなるんだよね(笑)。
─── 『おもいのたけ』を拝見したのですが、洞窟の暗さとか、キノコの不気味さとか…絵にすごく迫力がありますよね。
実は、『おもいのたけ』の絵は筆の勢いをベースに、色のセレクトも描き方も、独特な部分があるんだよ。色は余った絵の具を薄めて、じょぼじょぼってたらして、絵の具の表面だけを乾かした…言ってみればシミを作る作業だよね。背景も失敗した他の絵を塗りつぶして使っているんだ。
─── なるほど…すごく豪快ですね。でも、洞穴ってよく見ると人の顔に見えたりすることがありますよね(笑)。
きむらゆういちさんと一緒にお仕事された絵本では、「オオカミ」シリーズ(偕成社)がありますが、1冊1冊全て違うタッチで描かれていますよね。
シリーズの描き方を全部変えるのは、本当は分かりにくいから嫌がられるんだけどね(笑)。1作目の『オオカミのごちそう』のときは僕がガンの手術をして、伊豆に引っ越した直後だったから、画材もなくて、身近にあったちいさな紙に墨で描いたものを色指定して作った。2作目の『オオカミのともだち』はデジタルカラーコピーで、わざと反対色を出して作っている。この手法にしたのは、友達ができたんだけどミステリアスな相手…っていう作品のテーマにあわせて、不思議に見える色を出せる手法を取っているんだよ。3冊目『オオカミのひみつ』の画材は表紙のオオカミの「向き」から決まったんだよね。1冊目のときは左を向いていて、2冊目のときは右を向いていた。3作目のときは真正面がいいと思った。でも僕は絵が下手なので、真正面は描けない(笑)。だからダンボールを重ねていったら立体的に見えて正面向きになるんじゃないかって思って…。4冊目が一番普通なんだけど、『おもいのたけ』は4作目の『オオカミのおうさま』の描き方の延長線上にあるんだよね。
─── 今回、このお話をきむらさんに持ちかけたとき、動物でも人間でもないものを…と提案されたと伺ったんですが。
僕がいつも考えているのは、オオカミやタヌキというような固定の動物ではなくて、つかみどころのない、自然の中にある空気とか…例えば、草とか木とかの「気」が作り出している世界の話。それは一種のマモノなんだけど、どこかおかし味があって、間抜けで、ミステリアス。
そういうものが出てきて、わけのわからない終わり方をして…(笑)。
でも、子ども達の心に深く沈みこむものを描きたいという思いがあったんだよね。
─── 『おもいのたけ』を描くときに、苦労された場面はありますか?
もうね、この年になると、大変っていうことがなくなっちゃったね、もう力ずく(笑)。特にゆうちゃん(きむらゆういちさん)とは何回も仕事をしているから、ゆうちゃんがやろうとしていることには寄り添ってあげたいって気持ちがあるね。『オオカミのごちそう』くらいのときはまだ、自我を出そうって思いがあったけれど、今は「ゆうちゃんが言うなら、そうしようじゃないか」って…。でも、そう思うようになったのは、木の実の作品を作り始めてからだね。自然のものを創作していく中で、なるべく自分を殺すっていうか、自然とか相手とか、鑑賞者に寄り添っていくことを大事にするようになったんだよ。
─── 青い色のキノコがすっごくミステリアスですよね。キノコがいろんな顔にも見えてくるところも、不気味です…。
キノコがいろんな動物の顔に見えてくる場面は、ちょっと難しかったね。文学として書くと「○○の顔に見えた」って一行で表現できるけど、絵にするとものすごく作りにくいんだよ(笑)。あくまでキノコだから、あんまりリアルにしすぎてもいけないしね。
─── 青なのに、イノシシに見えたり、キツネに見えたりするのが、すごく不気味で面白いんですよね。それと、このキツネとタヌキのアップのシーンもすごい迫力があって。
これはまだ、2匹が和解しあっていない、微妙な表情なんだよね。
─── こんなアップの絵を描かれることは、めずらしいですか?
そんなことないよ。僕はアップや大きな絵を描くことの方が多いよ。小さい絵を描くのは苦手なんだよね。『おもいのたけ』の原画も大きい紙に描いたけど、『ちからたろう』なんて、1枚の原画が大きい窓くらいあって。出版社の玄関からは入らなくて、非常階段から入れようとした編集者が、風に飛ばされそうになったっていうエピソードもあるくらい。