お正月に毎年行われる箱根駅伝。一区から二区へと襷がつながれる、鶴見中継所地点から物語ははじまります。藤澤大学の眞家春馬(まいえ・はるま)は襷を待っています。同じくそこで待つのは、他大学の助川亮介と藤宮藤一郎。三人はじつは春馬の兄、早馬(そうま)を通じて浅からぬ因縁がありました。春馬が背中を追いつづけてきた兄はこの箱根を走っているのか、いないのか。わからないままに読者は、兄弟の高校時代に連れて行かれます――。
陸上部の高校3年生の早馬は、将来を嘱望された長距離走者。しかし同じ部活で力をつけてきた高2の弟、春馬との才能差をうすうす感じ始めた直後に、走者として致命的な剥離骨折をし、陸上をつづけるか葛藤します。弟に負ける恐怖。リハビリをしてつづけてもこれ以上記録が伸びないかもしれない恐怖。早馬は身動きがとれません。 優柔不断でお人好しの早馬は、そんなときに料理部の女子、井坂都と出会ったのをきっかけに、偏食家の弟のためにごはんをつくりはじめます。というのも小さいときに母が亡くなり、祖母も亡くなったあとは、兄弟の家では総菜やコンビニ弁当がつづいていたのでした。 一方、たった一人で料理部員をする都にも何かいきさつがありそうで……。乱暴な言葉づかいに似合わず、やさしい料理をつくる都の「アスパラと里芋と豚肉の照り焼き炒め」のおいしそうなこと。卵焼きにネギを入れるとき、熱いごま油をかけてから混ぜると辛くないの?なるほど!……なんて色々真似したくなっちゃいます。ただし、やたらと家庭料理ばかりなのもウラがあり、都の家族問題も描かれます。
放課後に男子と女子が一緒に料理をしている。しかも男子は怪我でリハビリ中。であれば恋物語も期待してしまいそうですが、安易にそうハッキリ流れないのがぐっとおもしろいところ! 高校の「部活」を舞台に、伸び盛りのコントロールしきれないパワーと繊細さとが同居する、とっておきのあいまいな時間が描かれます。
弟の春馬も、一見クールなチームメイトの助川亮介も、強豪他校のライバル藤宮藤一郎も、早馬に陸上にもどってきてほしいと思っています。では、都は? 都はどう思っているのでしょうか。 同性の兄弟はいちばんのライバルでもあり、兄弟がいる人にとっては身につまされるテーマでもありますよね。 人生の選択を下すのは簡単ではありません。早馬はこのまま裏方に徹して終わるのか。それとも走者としてもどるのか。冒頭の駅伝の襷は、どこへつながっていくのでしょうか。
高校生の必死さ、あいまいさ。かっこ悪さ、かっこよさ。そのすべてが本書には詰まっています。 最後には高校生活という「この時間」を生きるすべての人に拍手を送りたい気持ちになります!
(大和田佳世 絵本ナビライター)
駅伝×料理男子。熱涙間違いなしの青春小説
同時期に2つの新人文学賞を受賞し、2015年6月、2冊同時発売で話題となった著者のデビュー後初の書き下ろし長編小説。テーマは「駅伝×料理男子」。青春小説の名手と謳われる著者の真骨頂といえる感動作です。
陸上の名門高校で長距離選手として将来を期待されていた眞家早馬(まいえそうま・高3)は、右膝の骨折という大けがを負いリハビリ中。そんな折、調理実習部の都と出会い料理に没頭する。一学年下で同じ陸上部員の弟春馬、陸上部部長の親友助川、ライバル校の藤宮らは早馬が戻ってくることを切実に待っている。しかし、そんな彼らの気持ちを裏切って、心に傷を抱えた早馬は競技からの引退を宣言する。それぞれの熱い思いが交錯する駅伝大会がスタートする。 そのゴールの先に待っているものとは……。 高校駅伝、箱根駅伝の臨場感溢れる描写とともに、箱根駅伝を夢見て長距離走に青春を捧げる陸上青年それぞれの思いと生き様が熱く描かれる。青年達の挫折、友情、兄弟愛・・・。熱い涙、しょっぱい涙、苦い涙、甘い涙が読む者の心を満たします。 読後は爽快感と希望に溢れる熱血スポーツ小説です。
陸上兄弟。
兄は故障を機に走るのを引退?偏食で少食な弟に食事を作ります。
兄に料理を教えてくれる料理研究部の女の子。本当においしそうな料理を作りますねー!私も習いたいかも。
あとは兄を意識する陸上部の男子もいたりして。
陸上と料理の話を通しながら、各人の思いが見えてきて。
読みやすい青春小説です。 (みちんさんさん 40代・ママ 女の子12歳、女の子10歳、女の子5歳)
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