ひたすら善行を積むこと? 黄金期イスラームの輝きを伝える珠玉の随筆集。現代日本人にとっての意味合いを解説。 中世イスラーム社会で、金曜日の集団礼拝に参列しても説教をあまりよく聞かない人や、早々に退出する人などもいたことが出てくる。他方、そうではあっても礼拝に一応は集まってくるのだから、やはり現代社会とは異なる。社会全体の思潮の核となり、様々な議論が闘わせられるサンドバックのような役割も果たしてきたのが、イスラームであった。原著『随想の渉猟』の著者イブン・アルジャウズィーによると、最大の危機は論理的な学者により信仰から情熱が奪われることであり、もう一つは神秘主義により単純であるはずのイスラームに余計な訓練法を導入して、信仰に過剰な禁欲さと複雑化をもたらすことであった。随所に、信仰とは絶対主への愛(意識し、畏怖し、帰順すること)に尽きるという結論が導かれている。本書は随筆集であるので教科書とは異なり、以上の論旨を肩の凝らない筆致で示し、諄々と説いている。二世紀後になるが、日本の『徒然草』と瓜二つといえよう。
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