夢。 そこには色が、あっただろうか? 音や、香りは、あっただろうか? 起きてから思い返してみればあやふやで、そこに見た色や、聞いた音さえ、目覚めた頭があとから付け足しただけの、ニセモノのような気がしてしまって?? 私たちの日常のうちで、こんなにも儚く、おぼろげな時間が、他にあるでしょうか?
そんな夢の光景をていねいにすくい取り、おだやかに響くオノマトペとともに描き出した作品です。
著者は、全国各地で個展をひらき、自身でも出版レーベルを立ち上げるなど、活躍めざましい気鋭の絵本作家、中野真典さん。
「目の前のもの、そこにある現象を体を通して描く」とは、本作の著者紹介の言葉。 夢に沈み、夢に溶け、あるいは夢は降り積り?? 夢にまつわる耳なじみのないはずの言葉たちが、なぜか懐かしく感じるほどにしっくりくるのは、夢に対する身体感覚へ真摯に耳をかたむける、著者の制作姿勢のたまものだと感じます。
どんな言葉にも収まらない切なさ。 じわじわと息苦しくなるような不気味さ。 目も覚めてしまいそうなほど壮大な清々しさ。
境界もあいまいな、にじむようなタッチで描かれる夢の景色は、どこにもないはずの幻想的な景色。 それなのにだれもが、いつかの夜に見た夢と、同じ空気の景色をこの作品の中に見つけるはず。
夢という現象を、まるごと絵本の中に閉じ込めた、あたたかくも妖しい魅力のある一冊です。
(堀井拓馬 小説家)
おふとんにしずむ、わたし。わたしのみるゆめは、雨のなかカタツムリとのお散歩。わたしのみるゆめは、こわいものがいる暗い森。わたしのみるゆめは、綿毛とぶ気持ちいい花畑。そして……。眠りにおちる少女の思いを流れのままに描いた、ゆめの絵本。
内田麟太郎との最初の絵本『おもいで』では詩情あふれる情景を幻想的に描き、料理家・文筆家の高山なおみの自伝的絵本『どもるどだっく』では本能に生きる少女を大胆に描き、『ミツ』では愛猫との別れの体験を繊細に描くなど、注目の絵本を描き続けている画家、中野真典。その最新作は『ゆめ』をテーマに、眠りの風景を描く。ときに幻想的に、ときに大胆に、本能をゆさぶる絵で見る者の心をとらえて離さない、中野真典最新作。
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