自然が自然の、あるがまま──それでは見れない、景色があります。人の営みと、自然の営みとが、互いをおぎない、助けあう。「里山」とは、そういう自然の姿です。
幼少期にあった里山を再生したい。
そんな夢を抱き、長い年月をかけて理想を実現した、著者の今森光彦さん。今森さんは、自然と人との関わりを写真におさめつづけてきた写真家で、切り絵作家としても活躍されています。夢の実現のため、そして、失われつつある生きものたちのすみかをなんとか取り戻したいと考えた今森さんは、チョウのための庭をつくることを決めます。
「チョウは、環境の豊かさをはかるのに、もってこいの生きものだからです。(中略)何種類ものチョウがすんでいるということは、それだけ多様な植物が生えていて、環境が多様であるということになります」
そんな「チョウの庭」のお手本が、「里山」!
「自然と人の営みが、どちらもこわれることなく共存している、里山の農業環境に学びたいと思ったのです」
比叡山のふもとにある、何十年も放置されていた土地を買い取った今森さん。本書では、四季の移ろいと共に変化する「チョウの庭」の風景を中心に、小さな里山作りと、そこを訪れる種々のチョウや花々について解説していきます。
春にはスミレやノアザミが咲き、夏にはボタンクサギがの甘い香りが、チョウたちを夢中にさせます。季節ごとに色を変えるのは花々だけでなくチョウも同じで、四季折々の色合いが、小さな里山を飾ります。
そんな美しい風景も、今森さんの情熱あってこそのもの。荒地に井戸を掘り、草刈りをおこない、ヒノキを伐採し、そうして整えた土地に、何年も先を見越した計画的な植樹をおこないました。
作りあげた里山の風景を手入れするのも、大変。木々の枝葉を整える枝打ちは、木によって頻度がちがいます。そうして明るい環境をつくることで、スミレの花はのびのびと育ちます。一方ノアザミが好むのは、昔ながらの田んぼづくりがおこなわれている場所で、そのためには草刈りが必須です。
みどころはもちろん、小さな里山の風景と、チョウをとらえた写真の数々! ひとつの環境に、こんなにも様々な色、形、生態のチョウがいることに驚かされました。なんとその数75種類! それが57メートル四方の土地の中に、見ることができるのです。
人の暮らしがあり、それを支える農家の人の仕事があり、その仕事によって形作られた環境でこそのびのびと生きられる、たくさんの命がある。そのことの奇跡が、つよく胸を打つ一冊です。
(堀井拓馬 小説家)
75種のチョウたちが暮らす庭がどのように作られていったかを、約300点の美しい写真で楽しく紹介。読んでいくうちに、人間、植物、生き物が、全て関わりあって生きていることが自然にわかってきます。今森光彦、30年の集大成!
『だれだかわかるかい?むしのかお』や『みずたまレンズ』など、今森光彦さんの写真絵本は、どれも素晴らしいです。
こちらは、自然と人との関わりを写真に撮り続けている今森さんが、30年かけて作り上げた小さな里山の様子が語られています。
以前、今森さんの写真絵本『さとやまさん』を読んだとき、「さとやまは手作りできる小さな楽園」と語ってらっしゃったのを思い出しました。
季節の移り変わりによって変化する自然の美しさを感じることができる、素敵な作品でした。 (クッチーナママさん 40代・ママ 女の子20歳、女の子17歳、男の子15歳)
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