〈ある日の昼下がりのことだった。 朝まで原稿を書いていて、自宅のベッドで寝ていた僕は、ふいに鳴りだしたスマホの着信音に叩き起こされた。 仕事仲間はこちらの生活リズムを知っているから、あまりこんな時間には電話を鳴らさない。いったい誰だろう? ディスプレイに映し出された名前を見た瞬間、僕の心臓は誰かに掴まれたようにギュッと縮んだ。 “これ、夢じゃないよな? いま、俺、たしかに起きているよな?” 震える手で通話ボタンをタップする。 「もしもし……」 「小島さん、ご無沙汰してます。25年ぶりぐらいですかね?」 電話口から聞こえてくるその声は、あのころとまったく変わっていなかった。懐かしさで胸がいっぱいになり、気がついたら、もう涙がポロポロあふれて、止まらなくなっていた――。(プロローグ〜それは「幻の男」を探す旅からはじまった〜より)〉
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