森林が豊かで、昔からゾウと人が協力して林業を営んできた国、ミャンマー。本書は19世紀末から20世紀中頃にかけてミャンマーにいた1頭のアジアゾウのおはなし。とびきり頭がよく、勇気のある大きなオスのゾウ、バンドゥーラ(1897〜1944年)の物語です。
もうひとりの主人公はジェームズ・ハワード・ウィリアムズ。イギリス生まれのウィリアムズは、植民地下のミャンマー(当時はビルマ)に貿易会社の社員として赴任します。経験豊富なゾウ使い・ポトケを通じてバンドゥーラに出会い、やがて信頼関係を築いていったウィリアムズ。ポトケを校長に「ゾウの学校」を作り、暴力的な訓練ではなく、子ゾウを育てながら愛情を持って訓練する方法を編み出します。
ウィリアムズの尽力で使役ゾウの環境は改善しますが、第二次世界大戦の開戦で “ゾウ部隊”が編成されることに。日本軍の侵攻が迫る中、集団の先頭に立って、ジャングルや岩山を越える大脱出を成功させたバンドゥーラでしたが、悲しい運命が待っていました……。
大判絵本の画面いっぱいに描かれるジャングルや夕陽が美しい絵本。ゾウの生態や使役ゾウの歴史も知ることができます。本書の作者ウィリアム・グリルは、2015年『シャクルトンの大漂流』(岩波書店)でケイト・グリーナウェイを史上最年少の25歳で受賞。本書は実際に2020年のミャンマーへの旅と調査を経て、執筆されました。
この絵本は単なるバンドゥーラの英雄物語以上の、たくさんのテーマを含んでいます。作者のあとがきでは、使役ゾウの歴史を踏まえつつも、自然の生息地でゾウが自由に穏やかに暮らせることを願っていると書かれています。 植民地支配や戦争が、国政や人々の生活に影を落としたまま、今も不安定な政情が続いているミャンマー。本書はゾウや野生動物のことに加え、森林環境、戦争、密猟など様々なテーマについて考えることができます。小学校3、4年生以上の子どもたちにぜひ手にとってほしい絵本です。
(大和田佳世 絵本ナビライター)
ミャンマーでは昔から、ゾウと人とが協力して林業を営んできました。貿易会社の社員としてミャンマーに赴いたイギリス人のウィリアムズは、そこでゾウ使いやゾウと一緒に仕事をすることになり、やがて、とびきり頭がよくて勇敢なゾウ、バンドゥーラに出会います。ウィリアムズとバンドゥーラは、かたい信頼の絆で結ばれ、その後、戦火をのがれてジャングルを超える困難な旅を共に成し遂げることになります。作者のグリルは、最年少(25歳)でケイト・グリーナウェイ賞を受賞した画家。実際にミャンマーに取材して執筆にのぞんだ、力のこもった絵本です。今も不安な政情が続くミャンマーの人たちや動物たちへの思いがこもった作品です。
以前、同じ作者さんの作品『シャクルトンの大漂流』、『カランポーのオオカミ王』を読みました。大判の画面いっぱいに、ダイナミックに描かれるイラストに魅了され、感動したことを覚えています。
こちらも表紙からとてもおしゃれなでワクワクしながらページを開きました。
ゾウや歴史などの解説が短い文章とイラストでわかりやすく記されているので、背景が理解しやすくて読みやすいです。
使役ゾウや戦争について考えさせられます。 (クッチーナママさん 40代・ママ 女の子19歳、女の子16歳、男の子14歳)
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