自らの五感を総動員しモダニズムの手法を駆使した『痴人の愛』、伝説・歴史・伝統芸能を通して「母なるもの」への限りなき憧憬を描く『吉野葛』、自ら目を突き愛する者と同じ盲目になることで純度の高い関係に到達する『春琴抄』、厠や障子、金屏風など日本ならではの建築や調度品に現れる美に迫るエッセイ『陰翳礼賛』。谷崎の代表作4作品を読み解くことで見えてくる、谷崎ワールドの豊饒さとは? 人が逃れられない欲望や性的倒錯、愛するものへの妄執といった愚かさをむしろ慈しみ、とことん凝視する姿勢から結晶化した独自の作品群は、海外からも注目されるマスターピースとしていまも燦然と輝く。
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