いわゆる実証主義史学とは、歴史学の本質を表すことばであり、史料批判という作業を経た後の史料を基に歴史像を再構成する知的営為をいうのであろう。
本書は、法政大学・同大学院で日本近代史を長年指導された長井純市先生のご退職にあたって企画・編集された記念論集である。 論集全体を通じたテーマは「史料」である。刊行・非刊行を問わず、日本近代史のさまざまな史料に対して、新しい解釈を加え、歴史像の再構築を試みた論稿が収められている。各論稿は多様な関心に基づくものであるが、全体として、@従来ほとんど扱われてこなかった史料や新しい方法論を用いた論稿、A史料批判や再解釈を通じて既存の歴史像を描き直した論稿、B史料の収集・編纂過程など、歴史をめぐる営み自体に注目した論稿で構成されている。 今日、日本近代史研究の史料はデジタル化によってアクセスしやすいものになってきているが、そこから新しい歴史像を描き出すためには、じっくりと史料に向き合う必要があることには変わりがない。その一方で、足で稼がなければ得られない、未知の魅力的な史料もなお膨大にある。歴史学と史料を取り巻く環境が変化し続ける時代にあって、改めて史料にこだわることで日本近代史像の再構築に資するとともに、新たな史料の発掘・考察を誘う契機となれば幸いである。
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