渋谷のハチ公 生誕100周年
ただひたすらに帰らぬ人を待つ。日本一有名な犬、忠犬ハチ公の物語。
生誕100周年を迎え、いつまでも渋谷の愛されるシンボルに。
ぼくはね、野良犬になるよ。 でもね、心配しないでいいよ。 この町でどうにか生きてゆくからね。
門のむこうから背の高い人が、ゆっくりと歩いてきました。 ハチは、その人のにおいで、すぐに先生だとわかりました。 「ずーっと待っててくれたんだね、そうかい、ずーっと、わたしを待っててくれたのかい」 大きな両手でハチの顔をなでまわしてから、先生はハチを抱きしめました。 「さあ、ハチ、うちへ帰ろう」
大正天皇が亡くなり、元号は「昭和」と改められました。 夕方になると、渋谷駅へのお迎えがまたはじまりました。 つぎの日は、駒場の大学で先生を待ちました。 毎日、夕方六時になると、ハチはいそいそと出かけてゆきます。 「おい、やっぱり、あいつ待ってるよ」 「バカな犬だなぁ。ご主人さまは、とっくに死んじまったんだろ。いっくら待ったって帰ってこないのにな」
本書は平成二十一年八月八日に刊行した『ハンカチぶんこ ほんとうのハチ公物語』を 改題・改訂のうえ、新装したものです。
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