読書の記録、今年81冊目は広小路敏『アトランタからきた少女ラーラ』である。本書の構成は二部建てで、前半が『アトランタからきた少女ラーラ』後半が『ケイティ、僕のユーマノイド』アトランタという銀河の中心宇宙から来たラーラは1977年の高校一年生(カナダからの短期留学生として)、ユーマノイドは終戦百年を迎えた2045年のアンドロイドと共生する未来社会が舞台。
両方の小説とも英語と日本語のサマリーを最初に示して、日本語の本文へとつなぐ。SF小説だがアカデミックな作法も試みる。タイムスパンで言うとちょうど1961年生まれの方の高校一年生16歳の高校時代と、78歳時の未来の時代を描く。文章が非常に精緻であり、情景がそのまますぐに頭に浮かび話の理解がどんどん進む。人の短い一生の中で起こりうる物語として、知識や経験豊富な言葉で臨場感が際立つ。
テーマは進んだ技術社会、進歩社会への憧れ、地球に住む人類の無節操な行動、核兵器や原子力発電の核廃棄物をどうするのかへの問題提起、2045年シンギュラリティが到来しその時、国と国との戦争や紛争は日常の人間とアンドロイドの共生の中でどう扱われるのか。
高校生の淡い恋愛と、人間とアンドロイド(小説では生命体、最後まで読むと大どんでん返しがあるのだが、ここで種明かしはできないのでこの表現)の恋愛の形はどうなるのかなど、非常に重厚なSF小説であり社会小説である。したがい、この作品は、若い人たちに是非読んでもらいたい。図書館の蔵書としても中学、高校、大学、公共図書館では是非購入していただき、読書会やビブリオバトルで大いに話題にもしてもらいたい。素敵な本なので星5つ。文庫化希望。
ちなみに著者は、元立命館大学職員。入学改革、入試ラジオDJ、校友業務や図書館改革などで腕を奮われた松田敏さん。